蝉
〈蝉 各位〉
近年、蝉の鳴き声が少なくなったように感じます。猛烈な暑さのせいなのか、木や土が減ってしまったのか分かりませんがね、いやぁ、少々寂しいものです。そうそうですからね、蝉にはしっかり生きてもらいたい。
私は子どもの頃に、猫に食われる蝉をまぁ見てきたんです。あれは惨いですな・・・夜、明かりに釣られて網戸に止まっていると、背後から猫がじっと狙ってるんですよ。家の中からそれを見ていたんですがね、どうも動きが鈍い蝉を逃してやれませんで、そのままぱくっといかれてしまいました。猫はこちらに向かって捕った獲物を見せるんですねぇ。食わないのなら逃してやれと言ったんですが、少し戯れてると思ったらバリバリと音がしまして、嗚呼、食われてしまった。と・・・猫が捕まえられる高さにおったのが災いでしたね。
高さと言えば、羽化したての蝉も食うておりましたね。あれは私が見てきた中で1番かわいそうでしたね。コンクリートのあれは家の基礎にあたる所ですね。下の方で羽化したんです。人間の脛辺りでしょうか。それを猫が見つけてしまい、ぱくりですよ。初めて鳴いた声が命が終わる瞬間でしたから大変悲しい思いでした。
以後、夏になりますと土から出てくる蝉を見つけては、どこで羽化するのか心配になって行く先を見守るようになりましたね。コンクリートはツルツルなもので蝉はうまく登れないんですね。ですから、そっちへ行こうとする蝉がいたら木が沢山ある方へ体を向けてやって、木に登るように促していますよ。長い年月を土の中で過ごしてきたんですから存分に外の世界を味わってもらいたいと思っておりますね、えぇ。
なので、蝉には羽化する際、十二分に注意してもらいたいのです。ちゃんと木の高い所へ行って羽化する事。葉の裏ですとか、とにかく猫に食べられないようにする事です。ゆめゆめ御油断なされるな、と私は申したい。
え?蝉ハンターの猫ですか?えぇ、えぇ、同じ猫です。きっと一匹食べて味を占めたのでしょうね。あのバリバリ、パリパリの食感が気に入ったんですかねぇ。