化学合成~香料会社研究職のお仕事~
香料会社研究職の仕事の中には「化学合成(有機合成)」があります。
概要
まず、化学合成の仕事内容について研究職紹介記事から引用します。調香師などの仕事にも触れているのでご興味ある方はどうぞ!
香料とは「有機化合物」であり、有機化合物を多種類組み合わせて一つの香料製品を創ります。そんな香料原料のコストダウン、新たな原料の製法(合成法)検討などの役割を持ちます。その結果、スペシャリティと言って、自社独自の香料原料を持つこともあります。大手ほど化学合成に人員を割いていると思います。
合成屋さんはやはり合成のスペシャリストとなるケースが多いです。素材研究と同様に、ラボスケールから工場スケールまで扱う可能性があるので、どのレベルの仕事が得意かどうかでキャリアパスに変化があると思います。
ここからは化学合成の仕事内容についてもう少し深く紹介していきます!
仕事内容
合成屋さんの仕事内容は主に下記のような業務があります。
①既存香料原料の製法改善
②研究開発用の香気成分合成
③自社独自原料の開発
①既存香料原料の製法改善
自社で製造している香料化合物をより効率的に合成することができればコストダウンに繋がります。有機合成屋さんならよくご存じだと思いますが、化合物によっては複雑な合成経路(製造工程)になってしまっている場合があります。合成経路を変えたり出発物質を安価なものに変更したりすることで、自社の利益率を改善できる可能性を秘めています。
ラボスケールでは上手くいったものの、工場スケールでは上手くいかない反応もあります。また、危険を伴う化学反応を避ける配慮も必要です。そういった製造レベルでの製法改善は、大学の研究ではなかなか味わうことのできないやりがいだと思います。
②研究開発用の香気成分合成
基礎研究を行っていると、未知の有用な化合物に出会うことがあります。
「柚子の香気成分を分析していたら、ある化合物がとても柚子らしい良い香りがする!でもどうやら未知の化合物のようだ・・・!」といった具合に。
あらゆる手を尽くして未知化合物の構造を推定できたら、その検証が必要ですね。しかし、推定化合物はおそらく簡単には入手できません。専門業者から購入しようにも、とても高価になったりラボスケールでは過剰量になったりする恐れがあります。
そこで合成屋さんの出番です。推定化合物を合成することで、構造推定の正誤判定・有用性の検証などと研究を前に進めることができるようになります。
ちなみに、天然物から有効成分を探索する研究の場合は、この世に存在しない化合物を合成することは少ないです。ある天然物では新規成分でも、他の天然物では既知成分のような成分もあります。そういった情報を駆使することで、合成や研究を前に進めることもあります。
③自社独自原料の開発
差別化を図るために、自社独自の香料原料を製造することがあります。独自原料をスペシャリティと呼ぶこともあります。②などの研究開発を経て、商業価値があるものに関しては独自原料として、製造レベルでの合成方法を確立します。
ここで、代表的な3社の独自原料を紹介します。独自原料については、ホームページや研究レポートから情報収集可能です。
高砂香料工業
高砂香料と言えばメントールです。メントールはハッカの香りで、ハーブのような清涼感のある香気成分です。その特徴から、ガムや制汗剤など非常に多種多様な商品の香りに利用されています。そんなメントールの合成技術を確立し、世界的にも高いシェアを誇っています。
1983年に工業化に成功した l -メントールの不斉合成技術は、クリーンでナチュラルな香りを特徴とする光学活性なスペシャリティ素材の開発に広く応用されています。
長谷川香料
長谷川香料にはさまざまな独自原料を公表していますが、ここではユズノンを紹介します。ユズノンはその名の通り、柚子から見つかった柚子の特徴香気成分です。長谷川香料はここで留まらず、ユズノンが炭酸感を増強する成分であると突き止めました。独自原料の価値向上に貢献していますね。
曽田香料
曽田香料は世界のラクトンハウスを謳い、さまざまな種類のラクトンを合成しています。ラクトンとは、乳製品や油リッチな食品に特徴的な香気成分です。ミルク、ピーチ、ココナッツのような香りが特徴の香気成分です。最近では、ラクトンが若い女性の特徴香気成分であることが判明し、ボディソープの香りにも応用されています。
おまけ about 独自原料
独自原料が独自原料たる所以を、入社当時の私の疑問と合わせて記述します。
自社独自原料は、一つの有機化合物です。その気になれば、他社が同じ化合物を製造することも可能です(特許に引っかからない前提で)。「メントールが売れているなら、真似して合成して売っちゃえば良いじゃん」と思いませんか?入社当時の私は、他社の独自原料をジェネリック医薬品のように売れないのかなと考えたことがあります。
まあできなくはないんですが、コストに見合っていないように思います。
一番の理由は、製造できることとシェアを奪うことは別物だからです。
一般的な独自原料は単体の有機化合物です。したがって、どこで作っても同じ香りになり理論上性能に差は出ません。純度による微妙な差異はありますが、シェアを覆すほどのものにはなり得ません。
そうなると価格勝負です。よっぽどの価格差がなければ、シェアを奪うのは難しいんじゃないかな~と思います。
そして、香料会社が一番利益を出すポイントは「調合香料」のはずです。調合技術に各社のノウハウが詰まっているからです。香料原料では会社による差別化が難しいので、わざわざ戦いに行くことは少ないのかな、と今では考えています。
というわけで、各社の独自原料のシェアを奪いに行くことは少なく、場合によっては他社の独自原料を購入することすらあるかもしれません。
「良い材料があるんだって?うちで上手く料理してやるよ」的な。
ちょっとおまけが長くなってしまいました...笑
そんなわけで、香料会社における化学合成の仕事の紹介でした!