空廻「笑ってれば」①
今回は空廻というラッパーの「笑ってれば」という曲を解剖していきたいと思います。MVはこちら→『笑ってれば』/空廻
このラッパーを知ったのは、ふらりとあるサイファーに立ち寄ったことがきっかけでした。全然身寄りもないところに突然参加してみたのですが、サイファーに参加している人たちはみんな彼の事を知っているにもかかわらず、僕だけ知らずに、「年上なんですね!」とか「Spotifyに曲あるんですね、すごい!」とか振り返ってみると、なんだか失礼なことを言っていたなあと思います。
その日の帰りの電車で、さっそく『地獄で笑え』というアルバムを聞いてみたのですが、Jazzyなトラックとリリックのワードセンス、そしてメッセージ性に完全にクらいました。特にボキャブラリーとライムの新鮮さが印象に残りました。サイファーに参加する前に知っていたら、リスペクトゆえにおそらくもっと畏まっていたと思うので、逆に事前に知らなくて良かったと思ったくらい、しっかりとファンになりました。
さて、今回の曲はその『地獄で笑え』というアルバムに収録されている「笑ってれば」という曲です。おそらく現段階での空廻の代表曲なのではないでしょうか。なんか曲の佇まいがすごい名曲然としているんです。
なによりもメッセージが良いです。この曲は確実に人を前向きにする力があります。自分は割とマゾヒズム的というかニヒリズム的な性質があって、「楽しんでる奴」を冷たい目で見てしまう部分もあります。でもそれって一種の逃げなんですよね。そうなってしまいそうな時に、メンタル面でこの曲には支えられました。やっぱり楽しんでいる人が正義だし、そっちの方がかっこいい。この曲の捉え方はいろいろあると思いますが、僕にはそういう響き方をしました。
さて、前置きが長くなりましたが、韻の解剖に入っていきたいと思います。
最初の4小節。メ韻は"ou"です。「"腰"痛」「”上”空」「”超く”だらない」「ジョーク」「フォーク」「奥」「僕」と7つ登場します。その中でも特に「wordのフォーク」「heartの奥」「何度も僕」は"aooou"の5文字で踏んでいます。
次の4小節。先ほどの4小節の”aooou"を軽く引き継ぎ、「”ナンボのも”ん」で”aooo"、「ハードなワーク」でも子音を含め語感で踏んできます。
また、「my life」「毎回」では如実ですが、"ai"
は前の4小節から継続的に踏み続けています。
そしてなにより、
乗り越える顔面は形状記憶合金 意地でもわらって根気よくwalkin'
はすごい新鮮なライムです。顔面に「形状記憶合金」という言葉を持ち合わせてくるのが絶妙なところです。
ここは前半では"ae"、後半では"ui"をメ韻としています。全体を見ると"ae"を軸にしつつも、"aae"としているところが「だ帰」「語って」「抱え」「た風」の4ヵ所見られます。
バース1の最後の4小節では、先ほどの4小節後半から登場している"oe"を多用しています。また、
隅で震える子ねこ。俺だけ温かい思いしてゴメンよ。
は「子ねこ」「俺」「ゴメンよ」で踏んでいるラインですが、ここは個人的にすごい空廻らしさを感じるリリックです。人には見えないところへの思いやりと、内面的なイケメンさに満ちてないと、これはなかなか言えないと思います。
そして、バースを締めるのは
正義ってのは苦しみの方にはない
という、この曲を象徴するようなメッセージです。「道理はない」という分かりやすい韻と踏むことでより強調されていると思います。続いてhook。
言葉はあまり変えていませんが、2小節で分けた1小節目(上図でいう左寄りの部分)に"aaeea"の響きを置いています。また2小節で分けた2小節目(上図でいう右寄りの部分)で見ると前半4小節では "i" を、後半4小節では "ou" 特に"u"の響きを多用しています。
きっと笑ってれば結局どんな地獄でもステージになるからさ
これは『地獄で笑え』というアルバムタイトルのもとになっていそうなラインですね。
次回は、verse2、verse3を見ていきたいと思います。
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