見出し画像

やさしい朝

38才の妹が妊娠した夢を見た 

久々に山形の実家に帰省した。
茶の間に入ったばかりの私は、まだ肩に下げた荷物も
置いていないのに、嬉しそうな母にそんな衝撃報告をされた。 

そこに立つ妹の少し丸く出た下っ腹を丸い目で見つめ、
そして、おめでとう、と言った。 

思い返せばお互いに異性との付き合いを報告したり、
相談したりすることが一切ない兄弟だった。 

10年前の妹は田舎にしては私と違って前衛的で奇抜。
市内をヘリで探しても上空から見つけられる自信があった。

そんな妹がついに。とても感慨深い。 

私は少し遠慮気味に、お相手は?と聞いた

妹は私にサッと写真を差し出した。
持ってたのか。
インスタントカメラで撮ったかのような3枚の写真は、
どれも野外で暗い。
この人、と何人かの中の一人を指さされたが、
どうも顔がぶれている。
目が大きいような、見開いてるような、よくわからない。
楽しくふざけている雰囲気は、わかる。 

黄色地に緑色で英語のロゴが書いてある、
大きめの半袖シャツを着ている。 

2枚目も花火をしてる途中みたいなので、またはしゃいでいる。
顔がぶれている。歯があるようなないような感じだ。
そしてまた黄色い同じシャツ。

3枚目は見た瞬間に、ブラジルカラーのシャツを
すぐ探し当てた。
ジャンプしてる瞬間で、シャツがめくれて腹が少し見えている。
顔はぶれて伸びているが、楽しそうなのはわかる。 

私は顔を上げて、静止画ないの?と妹に聞いた。
妹は真顔で私から写真を取り上げた 

なんだか妙な不安に襲われて
この人と結婚するの?とは聞かなかった。


そこで目が覚めた。
支度して家を出て、仕事へ向かう車の中で考えた。
一体誰だったんだ、あいつは。

いつも楽しそうだった(3枚中、3枚)。ムードメーカーなのかな。
ブラジルが好きなのかもしれない。
あのシャツも一枚だけじゃなくて、何枚も持ってるのかも
一緒にビールを飲んだら意外と話が合って、
いい奴かもしれない。
妹が選んだ人なんだし、幸せならいいじゃないか 

でも父親と会わせるときは、誤解があると困るから
同席しようかな 

台風明けの灰色の空は、いつもより美しかった

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?