第22回 なぜ教採の「倍率」が高い教科もあるのに教師不足なの? 素人からの無邪気な質問に、ジーニアス河野が、上品に皮肉を込めて答えるシリーズ!
素人からの無邪気な質問に、ジーニアス河野が、上品に皮肉を込めて答えるシリーズ!
第22回 なぜ教採の「倍率」が高い教科もあるのに教師不足なの?
「教員採用試験の倍率が高い教科があるのに、どうして教師不足なの?」という疑問は、教育現場の複雑な現状を的確に突いています。
一見、倍率が高いということは応募者が多いように見えますが、実態は少し違います。
その裏側には、教育の仕組みや社会的な要因、そして教職という仕事の特異性が絡み合っています。この謎を解き明かしてみましょう。
高倍率のカラクリ
まず、「倍率が高い教科」という現象自体が持つ特性を理解する必要があります。
教員採用試験の倍率は、応募者数を採用予定人数で割った数値で表されます。
この倍率が高い場合、確かに応募者が多いことを示していますが、これがそのまま「優秀な人材が多い」というわけではありません。
例えば、中学校の社会や国語といった教科は、教員免許を持つ人が多いため、応募者が増えやすい一方で、採用枠が限られているために倍率が高くなります。
しかし、採用後に現場で長く働き続けることを希望する人がどれだけいるかは、また別の話です。
つまり、倍率が高い教科でも、実際に採用された人材が教育現場に定着しなければ、結果的に「教師不足」という状況が続くのです。
教師不足の理由
次に、教師不足の背景を考えてみましょう。
教師不足は、特に地方の小規模校や特別支援教育、専門性の高い教科(理科や技術、家庭科など)で顕著です。
このような教科や地域では、そもそも応募者が少なく、採用する人数を確保できないことが問題となっています。
さらに、教育現場での労働環境も大きな要因です。
教師の長時間労働や多岐にわたる業務内容、保護者対応や書類作成といった負担が重くのしかかり、「教師になりたい」と思う若者を遠ざけている現状があります。
採用試験を突破しても、現場の厳しさに耐えきれずに早期退職するケースも増えています。
採用試験の課題
採用試験の仕組みにも問題があります。
例えば、筆記試験や面接試験の内容が現場での実践力を十分に評価できていないという指摘があります。
また、教員養成課程を修了し免許を取得したものの、「採用試験に合格するのは難しい」と感じて他の職業に流れる人も多いのが現状です。
さらに、採用試験が一発勝負であることも問題です。
現場での能力や適性がある人でも、試験当日にうまく力を発揮できないと不合格となり、教壇に立つ機会を失うことがあります。
この仕組みが、優秀な人材の流出を助長しているとも言えるでしょう。
皮肉な現実
倍率が高い教科では、「選ばれた人しか教壇に立てない」という競争の厳しさが強調されがちですが、現実はもう少し複雑です。
特定の教科で倍率が高くても、それが全体の教員不足を補えるわけではありません。
むしろ、教員全体のバランスを見直し、どの教科や地域でも必要な人材が行き渡る仕組みを構築することが求められています。
改善策は?
教師不足を解消するには、採用試験の仕組みや現場の労働環境を改善することが不可欠です。
例えば、採用試験に現場実習や長期インターンを取り入れることで(学生や民間からの受験の場合)、応募者の実践力を評価し、適性を見極める方法があります。
また、現場の負担を軽減し、教員が本来の教育活動に集中できる環境を整備することも重要です。
さらに、教員採用試験の倍率の偏りを是正するために、特定の教科や地域に対するインセンティブを設けることも有効です。
例えば、地方の学校や専門性の高い教科で働く教員に対して、給与面やキャリア形成での優遇措置を提供することで、応募者を増やすことが期待されます。
結論
教員採用試験の倍率が高い教科がある一方で教師不足が続く背景には、採用試験の仕組みや教育現場の課題が複雑に絡み合っています。
倍率だけに目を向けるのではなく、教育の現場で必要とされる人材をどのように確保し、長期的に働ける環境を整えるかが、今後の大きな課題です。
皮肉を込めて言えば、採用試験の倍率の高さは、教育現場の人気を示しているのではなく、むしろその矛盾を浮き彫りにしているのかもしれません。
本当に必要なのは、数字の美しさではなく、教壇に立つ教師一人ひとりが輝ける仕組みなのです。
レトリカ教採学院
河野正夫