【レトリカ教養ラジオ】第5回【「教育の目的」(第1条)と「教育の目標」(第2条)』】

【レトリカ教養ラジオ】
第5回【「教育の目的」(第1条)と「教育の目標」(第2条)』】

教育基本法における「教育の目的」(第1条)と「教育の目標」(第2条)は、教育の方向性とその具体的な実践の指針を示すものとして区別されています。「教育の目的」とは、教育が最終的に目指すべき理念を表し、教育活動全般の根幹を成すものです。教育基本法第1条では、「人格の完成」と「平和で民主的な国家及び社会の形成者としての資質を備えた国民の育成」がその目的として掲げられています。これは、教育が人間性を高めるだけでなく、社会全体の発展に寄与する人材を育てることを強調しており、教育が持つ普遍的かつ根本的な理念を示しています。

一方、「教育の目標」とは、教育の目的を達成するための具体的な取り組みを指し、教育活動の実際的な方向性を示します。教育基本法第2条では、教育の目標が5つに分けて示されており、知識や教養の涵養、個人の価値尊重、正義や責任の重視、生命と自然の尊重、伝統と文化の尊重などが挙げられています。これらの目標は、教育の現場で具体的に取り組むべき事項を明確にし、教育の目的をより具体的かつ実践的な形で支えるものです。

教育基本法で「教育の目的」と「教育の目標」を2つに分けて記述しているのは、教育の理念とその実践を明確に区別するためです。教育の目的が理念的で抽象的なものであるのに対し、教育の目標は具体的な実践を伴うため、両者を分けて記述することで、教育における普遍的な価値とその価値を現実に適用するための方策を整理しています。この区別により、教育が単なる理想の追求に留まらず、社会に即した実践的な取り組みとして展開されることを強調しています。

1947年の教育基本法制定時には「教育の目的」のみが明示されており、「教育の目標」についての記述はありませんでした。その後、平成18年の改正で「教育の目標」が加えられた背景には、時代の変化や社会のニーズに応じた教育の具体的な在り方を明確化する必要性がありました。戦後の日本社会では、経済発展やグローバル化、価値観の多様化など、教育に求められる役割が大きく変化しました。改正前の教育基本法は、戦後の日本社会の民主化と平和を重視する理念を強く打ち出していましたが、具体的な教育活動の指針が十分に示されていないとの指摘がありました。

改正にあたっては、教育の目的を達成するための具体的な目標を示すことで、教育活動の方向性をより明確にし、教育現場での実践をより効果的に行うことが期待されました。この改正の過程では、教育の理念を保持しつつ、現代社会に即した教育の具体的な目標を設定するための議論が行われました。その結果、教育の目的である「人格の完成」や「民主的な社会の形成者の育成」に対し、それを具体化するための「教育の目標」が明記されるに至りました。

教育基本法第1条と第2条の関係は、教育の理念と実践の統合を示しています。第1条が教育の根本的な理念を示す一方で、第2条はその理念を現実に落とし込むための具体的な手段を示します。これにより、教育の目的と目標が相互に補完し合い、教育活動全体の体系的な枠組みを形成しています。このように、教育の目的と目標を分けて記述することで、教育が持つ本来の意義を損なわず、社会の変化に応じた柔軟な教育実践を可能にしているのです。


レトリカ教採学院
河野正夫


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