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天命に生きたひと
衝撃的な出逢い
これまで40数年間で出逢った方の中で、もっとも衝撃的だった方。
それは、とても重いからだの障がいをもった方でした。
20代のころに自転車で転んでしまい、それから首から下が麻痺して動かせなくなったという、60~70代のその女性は、とても姿勢よく車いすに座っていました。両腕が、きれいにひじ掛けにまっすぐ置かれています。楽しそうに笑ったりするたびに、頭が左右に揺れました。
それほどの障がいをもった方に直接お会いしたのは初めてでした。
わたしは、目の前の方の「大変そうな障がいがある」という事実を必死で頭の隅に追いやり、彼女の話を聞いたり、そして優しく質問されるままに自分のことを話したりしていました。ふだんは好奇心いっぱいで質問魔のじぶんですが、こちらから容易に触れてはいけないような気がしたのです。
ひとしきりおしゃべりした後に、ふと彼女はこういいました。
「わたしはね、今でも体が自由に動いたらって思わないことはないんです。思わないことはないんだけど、それでも毎日いろんなことに感謝して、生きてるんですよ」
そう穏やかに話してくれました。
いちばん衝撃的だったのは、彼女の心のなかがとても平和だったこと。
なにより、笑顔がなんともほがらかなのでした。
天命に生きたひと
わたしが彼女にお会いしたのは、ある教会でした。彼女は、毎日訪れる信者さんたちのお話を聴いたり、神様のことをお伝えする、というお役目をしていたのです。大勢の人に慕われ、信頼され、尊敬されているように感じられました。
一緒に住んでいるご家族は、血のつながりはないけれど、信仰でつながっているご家族なのだそう。
なんだかとても温かいものを感じました。普通の家族以上に、家族だったかもしれません。
50年以上の間、身体がおもうように動かせないという状況は、自分にはちょっと想像しがたいことで、一見とても痛ましい出来事に思えます。
でも、彼女の心はそれを乗り越え、そして、周りの多くの人の心を慰めたり、癒やしたり、勇気づけたりしていた。
どんなことが起きても、心の平和をとりもどすことができるんですよ。そう、人生をかけて教えてくれていたかのようです。
残念ながら、その方は少し前に天に召されたそうです。
でも、たくさんの人の心のなかに、そして私の心のなかにも、いまでもつよく息づいているような気がしています。