ヒールの条件
前回のnoteで新日本プロレスにメインイベントを務められるヒールがいないと書いたが、決して素晴らしいヒールレスラーがいないわけではない。
先日行われた神宮球場大会を例にすると
神宮球場大会の個人的ベストバウトはヒールユニット鈴木軍リーダーの鈴木みのるvs鷹木信悟のNever王座戦だった。
鈴木は常に上から目線で相手を馬鹿にし、容赦無く相手を攻めまくる。逆にやり返されてマットに倒れ込めば何とも憎たらしい表情を浮かべながら這い上がる。
その姿は細部まで作り込まれたヒールとしての魅力を存分に表現していた。
試合内容も鈴木と鷹木の意地の張り合いには十分な見応えがあった。
鈴木みのるは実力と実績、そしてレスラーとしての存在感を兼ね備えている。
だがそれにもかかわらず常にヒールとしたの立ち位置を決して崩さない。
前回書いたことであるが、レスラーとしての実績実力、存在感がありながらヒールで在り続けること、これは何よりも困難なことだ。
実際、鈴木みのるは新日のメインイベントを務められるヒールレスラーである。
では何故、彼ではなくEvilがメインイベントにいるのか。
それは団体の構想として団体所属の若めのレスラーをトップヒールの位置に据えて興行を組み立てていきたい意図があると考えられる。
だがしかし神宮球場大会の内容を見ればメインイベントのEvilよりも第3試合の鈴木みのるの存在感の方が際立っていたことは明らかだ。
あとは50歳代という年齢的な理由もあるだろう。
恐ろしく高いコンディションを維持しているが、さすがに全盛期は過ぎている。
鈴木みのるがあと何歳か若ければコロナ禍において新日のトップヒールを務めていたことは容易に想像できる。
その鈴木みのるの後継者としての可能性があるのが同じ鈴木軍のタイチである。
タイチは長い時間をかけてファンの支持を勝ち得てきたレスラーだ。ヒールに転向してしばらくはただの嫌われ者的な役割で結果も伴わなかったが、ここ数年の試合内容が評価され、確実に彼の存在感は高まっている。
その結果を物語っているのが先日のニュージャパンカップであろう。
ベスト8で敗退したものの1,2回戦で棚橋と飯伏という2人の団体エースにシングルで2連勝をした。
神宮球場大会でも棚橋×飯伏組を相手ににタッグ王座を防衛し、外国人レスラーが来日できないコロナ禍において、さらにその存在感を増している。
鈴木みのると違い新日所属でもあるタイチは今後メインイベントを務める可能性の最も高いレスラーであると言える。
2本のベルトを与えられることでトップヒールになったEvilと着実にファンの(ヒールとしての)支持を集めてきたタイチ。
Evilがベルトを失った今、どちらがヒールとして格上にいるかは明らかだ。
ついでにEvilについて触れると
内藤がベルトのレンタル期間が終わったとコメントしたが、本当にそれがレンタルだとしたら、彼は今後高額なレンタル代を払い続けなければならない。
当然ながらロスインゴに戻ることはできないし、いずれジェイホワイトが戻ってくれば彼はバレットクラブのトップの座を失う。
さらに他の外国人レスラーも加わればユニット内での彼のポジションは微妙なものになるかもしれない。
Evilにこの状況を打開する策が用意されていることを期待したい。
最後に同じくバレットクラブの石森太二にも触れると、この大会において石森とヒロムのIWGPJr王座戦はNever王座戦に並ぶいい試合だった。
石森は華があり身体能力も高く、いつもいい試合をするレスラーだ。
だがヒールに向いているかと言われれば、疑問である。
試合ではヒロムの負傷箇所を容赦無く攻めていたが、ヒロムがロープブレイクに逃れると反射的にすぐ技を解く。
相手の弱点を攻めるのは格闘技において当たり前のことだし、ベビーフェイスであっても相手がロープブレイクをしてもすぐに技を解かないことは多い。
そこに石森の優しさというより真面目な性格が垣間見えてしまう。
つまりいかにいいレスラーでも、ヒールとしての役割を果たせるとは限らない。
おそらく石森は今後もいい試合を続け、徐々にベビーフェイスに移行していくであろう。
逆にこのことは鈴木みのるやタイチのレスラーとしての価値の高さを物語っていると言える。