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2017佐賀女子高校

佐賀女子高校が、高校総体で最後に優勝したのは、2013年のことだ。 考えてみれば、まだ4年しかたっていない。

しかし、その4年が「長らく優勝から遠ざかっている」と感じられるほど、佐賀女子高校は、高校総体の常勝校だった。 2000年以降だけでも、2001年(熊本)、2002年(茨城)、2005年(千葉)、2007年(佐賀)、2009年(和歌山)、2010年(沖縄)、2011年(青森)、2013年(佐賀)とじつに8回の優勝。優勝は逃した年でも、表彰台を逃したのは2006年(大阪)大会のみ。それが、2013年までの佐賀女子高校だった。
ところが、2014年(東京)で16位に沈んだところから、2015年(大阪)33位、2016年(島根)19位と「異変」とも言える順位が続いた。 かつて「ノーミス10本連続」など、日本随一の厳しい練習に裏打ちされた高難度な演技構成を隙なく演じていた佐賀女は過去のものとなり、本番で「まさか」というようなミスも出るようになっていた。

長らく光岡三佐子監督が率いてきた常勝軍団は、光岡時代からコーチだった横川由美に2010年から監督が代わった。すぐに勝てなくなったわけではないが、やはり少しずつ「なにか」が変わっていたのかもしれない。 横川監督に話を訊くと、「2013年の佐賀インターハイのあと、自分の中にも少し虚脱感のようなものがあって。絶対に勝つ! ではなくてもよいのではないか、と迷いが生じたこともありました。」と言う。

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それでも、2015年を迎えるころには、「もう一度、チームを立て直そう」と考えるようになった。 そのとき、東京の佐賀女OGの教えるクラブから佐賀女に、と来たのが現在、チームを引っ張る存在の仙波佳紘だ。 他にも、県内外から「佐賀女で」と有望選手が徐々に集まるようにもなりつつある。 ジュニアまでの実績はそれほどではなくても、高校で頑張れば上を目指せそうな、そんな素質と気持ちをもった選手が増えてきている。

正直、以前の「常勝軍団」だったころとは雰囲気は違っているかもしれない。 そのころのキリキリとした厳しさを知っている卒業生などの目には、「甘い」「これでは勝てない」と映るかもしれない、と思う。
しかし、今の佐賀女子では、健全に明るく、「新体操がうまくなりたい」という気持ちに沿った指導がされているように感じた。

取材に行ったのは、九州大会を2週間語に控えた6月11日だった。 今年の佐賀女子の団体は、「ロミオとジュリエット」の曲を使った、ドラマチックな作品で、ストレートに伝わってくる良さがある。 選手の質もかなり高く、選手の個性に合った表現も随所に見える、「勝負できる作品」に思えた。 まずは九州大会で優勝、そして勢いをつけて高校総体での復権を、と攻め上がるには絶好の作品のように感じた。

それなのに。 この日の佐賀女子は、午前中はバレエと基礎トレーニングをじっくり、さらには個人の演技練習を行っていた。 個人は、九州大会に出場する選手だけでなく、みんなが通し練習をする。 演技を見ている横川監督と古賀恵里華コーチは、それぞれの選手の演技をしっかりと見、ていねいに手直しを施していく。 九州大会を控えている個人選手は2人だけだが、どの選手がそうなのかわからないくらい、すべての選手がフラットに見てもらっていた。

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高校生は、春先の試合でその1年の自分の立場が決まってしまうことが多い。 団体のレギュラーに入れなかった、個人でも次の試合には進めなかったとなると、モチベーションを保つのが難しくなってしまうような扱いになってしまうことも少なくないと思う。サポート役も大切な仕事だが、この春に結果を出せなかった選手こそは、自分の練習をしたい、と思うはずだが、それが許されない場合もある。練習時間は確保できたとしても、指導者の「眼中にない」状態では、次に向けて頑張ろうという気持ちが萎えてしまうこともあるだろう。

今の佐賀女子はそうではなかった。 団体のレギュラーメンバーは5人だが、そこに入れなかった選手たちも、Bチーム、Cチームを組んで自分たちのチームの練習に余念がない。おまけに個人演技の練習もユースに向けてはしっかり行われていた。

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全国大会での成績が振るわなくなった2014年には、「みんなが楽しくやれる部活、でもいいんじゃないか」と考えたこともあるという横川監督。 今では再び上を目指す意欲を取り戻しているとはいえ、「みんなが楽しく」という思いも失くしたわけでないのだろう。 「強いこと」と「楽しく」を両立することは不可能ではないはずだ。 今、再生しようとしている佐賀女子は、以前とはまた「ひと味違う良さ」を手に入れようとしている。

伝統を守るということは尊い。 しかし、いくら頑張ったとしても、ずっと勝ち続けることはできない。 強い時期があれば、そうではない時期もある。それは自然なことだ。
それでも、もう一度、「強さ」を取り戻そうと、頑張ることはもちろん悪いことではない。 ある意味、「勝ち続ける」よりも難しい挑戦かもしれないが、挑み甲斐はあるはずだ。
この日見た佐賀女子は、まさにその段階にきているように見えた。

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2週間後の九州大会で、佐賀女子の団体には落下場外という大きなミスが出た。 結果は7位。 途中までは、会場の空気を変え、息をのむような演技を見せていただけに残念な結果だった。

しかし、競技終了後に見かけた選手たちも監督、コーチも決して意気消沈はしていなかった。 私の顔を見ると、「残念! 高校総体では頑張ります!」と横川監督は力強く言った。
「常勝であってこそ佐賀女」と思う人達には怒られるかもしれないが、私はこれでいいと思う。 失敗したら次に取り返せばいい。 負けても次こそは勝ちたいと思えればいい。

「常勝」の看板は失ってしまったかもしれないが、今の佐賀女子はよいチームだ。 今年なのか、もっと先なのかはわからないが、いずれは結果もついてくるに違いない。 その日を楽しみにしていよう。

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シーナ
20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。