「一期一会」~堀孝輔/2013全日本ジュニア
2013全日本ジュニアレポート 堀 孝輔(Leo RG)
長く新体操を観てきていると、時折、「これは、今このときにしか見られない演技だった」と感じる演技に出会うことがある。
最近では、今年のインターハイでの五十川航汰(済美高校)の演技がそうだった。
ブロンズコレクターの彼が、おそらく初めて強く「勝ちたい」という意思を露わにして、演じたあの日の演技には、点数や順位でははかれないものがあった。
今回の全日本ジュニアで、「それ」を見せてくれたのは、堀孝輔だった。
1日目1種目目リングでも、精力的にリングを回し続けるテクニカルな素晴らしい演技を見せた堀だが、多少、危ない箇所もなくはなかった。それが響いたのか、8・750という印象よりはかなり低めの点数になってしまう。リングでは3番目という試技順の早さもやや不運だったように思う。
続くスティックは、堀の十八番とも言える「アランフェス協奏曲」。情感のある美しい演技で、そのうえ、彼の演技は手具の存在感が大きい。巧みに操作するだけでなく、ただスティックを持っているだけでもそこに意味が感じられる、そんな演技なのだ。しかし、最大の見せ場である3回前転キャッチで落下してしまい、8・650。1日目の暫定順位11位は、彼が思い描いていたものとは大きな隔たりがあったのではないかと思う。
しかも。
今大会では、Leo RGの躍進がめざましかった。昨年まではともすれば「堀だけが抜けている」ように見えていたのが、1日目を終えて、大野哲平が13位、満仲進哉も16位という健闘を見せた。これはチームとしては喜ばしいことに違いないが、今まで常に周囲を引っ張る立場にいた堀には、今まで経験したことのない状況ではなかったか。
そして、その影響があったのかどうか。
それは、想像するしかないが、結果的に彼は、1日目に味わったであろうマイナスの感情をすべて、後半種目に向かうパッションに変換することができたのだ。
このままでは入賞もできない!
そんな位置で迎えた2日目最初の種目クラブでの堀孝輔は、今まで何回も観てきた難しい手具操作も涼しい顔でやってのけるクールガイとはまったく違っていた。やもすれば、無機質にも見えてた彼の個性を鮮やかに塗り替える優しくて美しい叙情的な演技。曲調も今までになくスローで、上挙ひとつをこれでもか!とじっくり見せる。そして、その上挙ですべての観客は視線がひきつけられ、息をのんだ。
ジュニアでは常に上位にはランクされるうまい選手ではあった。
その堀が、最後の全日本ジュニアで、軽やかに階段を駆け上り、新しい扉を開く瞬間を私達は観ている。そう確信させる演技だった。
得点9・100は、後半種目でのミスに泣く上位選手達を追い上げ、抜き去るのに十分な得点だった。
続くロープは、堀の持ち味であるスピード感と巧みな手具操作が十分に生かされた作品「リバーダンス」で、勢いにものって、9・150。終わってみれば総合順位も4位まであがっていた。
1日目のブレーキがなければ、台乗りの可能性も十分あっただけに悔しさは残る大会だったかもしれない。しかし、なによりもこの土壇場での窮地を自力で切り拓き、選手としての新たな境地も見せ、評価も得られたことが大きい。来年から高校生になるが、どんな選手に化けていくのだろう。
数年後に彼がもっともっと選手として成長しても、私はきっとこの日観たクラブのことを忘れないだろう。こういう瞬間に立ち合えることがあるから、観戦は止められないのだ。
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