2010鹿児島実業高校男子団体
私は、もともとは女子の新体操を取材して記事を書いているのですが、数年前から「男子はやらないんですか」と言われることが増えてきました。男子新体操に関心をもっている人は確実に増えているのを感じています。そして、そういうときに必ず話題になるのが、この学校です。「鹿児島実業の演技をYou Tubeで見たんですけど、おもしろいですよね~、ぜひ取材してほしい」何回かそう言われたことがあります。
そして、そのうちの1つは、実現しました。2008年の埼玉インターハイのときに、「高校生新聞」で鹿児島実業を取材するはず、だったのです。が、なんと! その年、鹿児島実業は、強豪ひしめく九州地区を勝ち抜くことができずインターハイに団体では出場できませんでした。
個人の選手が出場していたため、監督さんへの取材はでき、記事も掲載されましたが、インターハイで鹿児島実業の演技が見られなかったことはとても残念でした。いや、私だけでなく、多くの人にとって「鹿児島実業のいないインターハイ」はとてもさびしかったのではないかと思います。鹿児島実業高校は、そんなチームです。
まだ鹿児島実業の演技を見たことがないという人は、You Tubeやニコニコ動画などで検索してみてください。すぐにたくさん見つけることができます。そして、そのすさまじいビュー数に驚くでしょう。
なぜそんなにも多くの人に見られているのか? 鹿児島実業の演技は男子新体操では異質な「コミカルな演技」なのです。曲も「サザエさん」や「キューティハニー」のようなアニメソングや、モー娘。ピンクレディーなどを使い、動きにも小島よしおやはんにゃなど、いわゆる笑いもとるものが入っています。
しかし、ただおもしろおかしいだけなら、それは「高校生の悪ふざけ」で終わってしまいます。そうではなく、鹿児島実業の演技は見事な「エンタティメント」になっているのです。曲や振り付けがおもしろいだけではこうはなりません。音楽や音と絶妙にマッチした動きを、見事なまでに合わせるのは、並大抵の練習でできることではないと思います。また、コミカルな動きも、彼らの見事な間合い、呼吸あってこそ生きるのです。
一歩間違えれば「悪ふざけ」に見えかねないことを、彼は真剣にまじめに熱くやっています。だから、人々は面白がり、そして感動するのです。
九州は、男子新体操の激戦区です。そんななかでは「強豪校」とは言えなかった鹿児島実業の樋口監督は、「ビデオをあとで再生するときに、早送りされない演技をしたかったんですよ」と、2008年のインタビューで語ってくださいました。「うちは強いチームじゃないから、普通の演技だととばされてしまいますから」
「もう一度見たい!」と思わせる演技をする、そのこだわりから生まれたのが、男子新体操でも稀有な存在感を示す鹿児島実業の演技なのです。そして、その裏にあるのは、樋口監督の、「子ども達にいい思いをさせてやりたい」という愛情。それもインタビューのときに強く感じました。
「タンブリング」を見て、男子新体操に興味をもった人には、ぜひぜひ鹿児島実業の演技を見てもらいたいです。男子新体操はほんとにかっこよくて美しくてステキだけど、それとはまたひと味違う「独自の男子新体操」を追究しているこんなチームもあるのだということを知ってほしいと思います。
いや、なによりも、絶対に笑えますから(笑)!
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