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2012全日本ジュニア~恵庭RGクラブ

「軌跡」

第30回全日本ジュニアで初優勝した恵庭RGクラブの記事を書くために、過去2年間の全日本ジュニアの記録(プログラム、取材メモ)をひっくり返してみた。

2年前、第28回全日本ジュニアの団体競技には、恵庭から2つのチームが出場していた。
1つはこの年の全日本ジュニアで3位になった恵庭RGクラブ。こちらがいわゆる1軍で、現在、高校で活躍している植野洵(青森山田高校)、村上裕亮、山本海智、高橋祐太(恵庭南高校)の名前がある。このときの恵庭RGクラブの本番の演技について私のメモはこうだ。

「すごい。すごい。ラストの人を投げる技の連続がすごい。
タンブリングの交差もすごい。振付も緩急があってかっこいい。
動きだしがすごくいい。」

なんだか、「すごい」しか書いてないのだが、きっとそんな演技だったのだ。この年、恵庭RGクラブは3位になり、全日本ジュニアの団体で初めて表彰台に乗り、メダルを獲得した。

そして、この年出ていたもう1つのチームが「恵庭RGジュニア」だ。私のメモには、こうある。

「タンブリングはさすがにすこし弱いが、小さい子達なのに、いっちょまえに交差もやってて、動きがとてもかっこよかった。」

今回の優勝メンバーの中の、「森多悠愛・水戸舜也・芦野大孟・原田健太郎・五十嵐涼介」は、その「小さいながらもいっちょまえ」の演技を見せていたチームのメンバーだった。(中村大雅だけは、この年、すでに「恵庭RGクラブ」のメンバー)

そして、この年の恵庭RGクラブの主力だった「植野・村上・山本」という強い中3が抜けた翌年の第29回全日本ジュニアでは、後輩達が見事に彼らの穴を埋める演技を見せ2位。恵庭RGは、また1つ階段を上がったのだ。

この年の彼らの演技について、私のメモにはこうある。

「すっとして線のきれいな選手が多い。かっこいい曲で、うまいし、おしゃれ! 井原ばりの開脚ジャンプが美しい! 鹿倒立が、すばらしくそろっていてきれい。タンブりングもあぶなげない。人が空中で回る投げ技がすごい。」

そして、今年。
第30回全日本ジュニアで彼らはついに頂点に立った。
2年前の銅メダルを持っている中村大雅の手元には、これで金・銀・銅の3つのメダルが集まったのではないか。これはめったにないことだろうが、それだけ恵庭RGクラブが、毎年少しずつ地道に力をつけ、評価を勝ち得てきたという証でもある。

恵庭2

今回の恵庭RGの演技は、優勝にふさわしい完成度の高さだったが、そうやって地道に一歩ずつあがってきたためか、「優勝してやる!」といった余分な力がまったく入ってないように見えた。3位→2位ときているのだから、実際には、狙う気持ちはあったのだろうが、彼らの動きにはそういった気負いも重圧もまったく見えず、どこまでも軽やかでしなやかだった。

演技の中盤と後半で組みからの高い飛び技があり、その高さは圧巻だったが、度肝を抜くような部分はそこくらいだ。あとは、あくまでもベーシックな男子新体操であり、団体演技であり、徒手だった。ただ、そのひとつひとつが無駄なく、シャープで美しかった。体の線は細く華奢な印象なのだが、バランスでも、脚を上げるところからまったく軸足が微動だにしないだけの安定感があった。
今大会では、有力チームの多くがミスをした。とくに鹿倒立やバランスなど、大きな減点につながるミスをしたチームが目立った。そんな中で、恵庭RGクラブの鹿倒立は、その形の揃い方が半端なく、しかも文句なしに止まった。 
勝負あった! と思わせる倒立だった。
構成の面白さ、動きの奇抜さなどでは、恵庭に勝るチームもあったとは思うが、実施のたしかさでは間違いなくナンバーワンだった。なにしろ、実施が唯一9点台にのり、実施で2位の滝沢南中学に、0.325の差をつけているのだから。

私は、彼らが精一杯上に体を伸ばし、そしてそこからわずかに横に上体を傾けたときのラインが本当に美しいと思った。わずかな傾きなだけに揃えるのが難しいと思うが、その揃い方も見事なら、しゅっとした彼らのもつラインが最大限に美しく見えるあの絶妙な傾き加減もすばらしかった。

恵庭3

現在の恵庭RGクラブを率いるのは、森多伸明監督だが、北海道から大阪体育大学に進学して、新体操を続けてきたという森多は、恵庭でジュニアの指導を始めたときから、「とにかく徒手」という信念をもってやってきたという。以前は、「タンブリングの恵庭」というイメージも強かったが、タンブリングはあとでもいい! と信じて森多は、自分が指導を始めたときの小学生達に、徹底して美しい徒手を植え付けてきたという。その最初の教え子達が、あの初めてのメダルを獲得したときの主力である、「植野・村上・山本」なのだという。
そして、彼らに続く選手たちは、こうしてことごとく美しい線と動きをもった選手に育ち、ついに全国のジュニアの頂点に立ったのだ。

試合で演技をするのは選手達であることには違いないが、選手の力だけで成果が上がるわけはない。やはり、そこには、たとえ遠回りに思える方法でも、自分の信念をしっかりと持ち、ぶれない指導を貫いた指導者の存在がある。

今回の恵庭RGクラブの団体メンバーには中3がひとりもいない。
来年もまだこのメンバーで戦うことができるのだそうだ。
果たして彼らは、どこまで階段を上がっていくのだろうか。
今年、究めたと思った頂点はまだ踊り場だったと、思えるようなチームに成長してくれることを期待したい。

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20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。