2006町田RG
ここ数年、「新体操は地方の時代」と感じることが多くなっていた。 NPOぎふ新体操クラブ、山形RG、エンジェルカガワ日中など、生きのいい選手、上位を脅かす選手を輩出するクラブが地方にどんどん出てきたため、かつての新体操先進国だった東京の影がうすくなりつつある、と感じざるを得なかったのだ。
しかし――。 今年は東京の巻き返しの年になるのではないか、そんな予感がしている。そして、その原動力になりそうなのが町田RGと言っていいだろう。
2006年東京ジュニアから関東へ勝ち残った個人選手13人中じつに8人が町田RGの選手であり、団体6チーム中にも3チームが残っている。かねてより町田RGは強いクラブであり、イオンカップにも何度も出場しているがここまで選手が揃った時期は珍しいのではないか。
じつは町田RGは、私にとって特別なクラブである。
私が新体操の観戦を始めたのは1997年、本格的にビデオまで撮って観戦した最初の試合は1998年の東京ジュニアだった。このころ、東京のトップにいたのが町田RGの山崎ひとみ選手、そしてピュアRGの有野玲奈選手だった。当時の私は、競技の新体操を見ればどの選手も「スゴイ!」と思ったし、手具を落とさなければ「上手だった」と思う、そんなド素人の観客だった。 しかし、山崎ひとみ選手を見たとき、さらに当時はまだ山崎選手ほど上位にはきていなかった吉田友子選手を見たとき、「スゴイ!」だけでない魅力を感じ、新体操観戦にのめり込んでいったのだ。
私が新体操を見始めたとき、すでに彼女達は中2だった。当時は今よりもジュニアまでで新体操から離れる選手が多く、とくにトップ選手ほど高校では辞めてしまうことが多かった。山崎、吉田選手が中3になったとき、
「もうこの1年しか彼女達の演技は見られないかもしれない」と思うと、なるべく多く彼女達の演技を見ていたい! と思い、この年は東京ジュニア、関東ジュニア、東京都中体連、関東中体連、全日本ジュニア、クラブ選手権、イオンカップと可能な限りの試合を見に行ったものだ(それで観戦が癖になり現在に至る・・・)。
町田RGが練習で使っている成瀬の体育館がそんなに遠くないこともあって練習もよく見に行った。当時、まだ新体操のサイトも開設していなかったし、新体操の記事を書いたこともなかった一介のフリーライターの私だったが、「練習は自由に見てもらっていいです」と町田RG代表の曽我部先生が言ってくださったのでお言葉に甘えて多いときは週1回ペースで半年間ほどよく練習を見に行っていた。一度行くと3~5時間、ただただ練習を見ていた。選手とも先生ともほとんど言葉を交わすこともなくじーっと見ていたのだから、かなりコワイおばさんである。だが、この1999年の半年間が私の新体操への思いと見る眼を養ってくれたと思う。あのころの町田は本当に強かった。そして明るく楽しそうだった。
あれから、7年の月日がたった。町田RGは常に上位に顔を出す選手を輩出し続けてはきたが、それなりの浮き沈みはあったように思う。しかし、ここにきてこの数年、楽しみな芽を出していた選手達が一気に開花しようとしている、そんな予感に満ち溢れている。 今の町田RGのジュニア選手達の中には、すでに山崎ひとみや吉田友子のジュニア時代を知らない選手達が多い。私が練習を見に通った1999年に在籍していた選手は1人もいない。しかし、今の選手達の演技を見てもやはり「町田スピリッツ」は脈々と受け継がれていることが感じられる。
町田RGから個人8人、団体3チームが出場した関東ジュニアが8月12日に終わった。 結果、町田RGの8人は全員が予選通過(上位30位以内)、最終成績として4位・山脇麻衣、5位・山上莉紗、6位・成松エリナが全日本ジュニアに進出。団体では、町田RG(山脇・熊谷・山上・成松・野尻)が2位となり全日本ジュニア進出を決めた。 個人では、熊谷早希が11位、管家ひとみが13位と全ジュニにあと一歩のところで涙をのんだ。
また、団体も町田RGやまさき、町田RGもりのともにミスが出て、順位を上げることができず全日本ジュニアを逃した。これはとても残念だったに違いない。とくに町田RGやまさきは、東京ジュニアでは町田RGにも迫る勢いがあっただけに、全日本ジュニアで見られないことが残念だが、強豪・千葉のチームがひしめく関東ジュニアには1つのミスも許されないという厳しさがあった。関東ジュニア1位の安達新体操クラブ、3位のアミューズ新体操クラブ、4位のインタークオレスはすべて千葉県のチームであるが、どこも演技の確実性がすばらしく、演技がダイナミックで迫力がある・・・。そして、関東ジュニアでは安達以外の2チームはノーミス! その強さに対抗できたのは、公式戦ではおそらく初のノーミスを見せた町田RGだけだった。
関東ジュニアでの町田RGの演技は、ほんとうにため息が出るほどの美しさだった。ほかの上位チームのような迫力には欠けるものの、その美しさ、繊細な動きには圧倒的なものがあった。くるくるとよく回る町田の選手達だが、この5人が同時に回るフェッテターンの美しかったこと!(昨年はてんでバラバラに回っていた5人だけに、この1年間の進歩には涙が出る) 今年の町田RGチームのメンバーはたしかにスタイルもいい。みんな細くて脚も長い・・・いわゆる「恵まれた体型」であることは間違いない。しかし、スタイルがいい=美しいではないということが今の町田RGチームを見ているとわかる。たしかにスタイルには恵まれた選手達だったのだろうが、それからさらに必要な筋力をつけ、脚先の美しさを磨き、技を磨いてきた結果が今の町田RGなのだと思う。細くて長い脚ならばつま先は少々ゆるんでいてもOK! ではないから、本当に美しいのだと思う。
個人で全日本ジュニアに出場が決まった3選手の関東ジュニアでの健闘もすばらしかった。3人とも予選通過順位よりも順位を上げた結果となったが、町田の選手達は概して決勝種目(リボン・クラブ)に強い。そのことを証明して見せたのが予選14位から一気に6位まで順位を上げた成松エリナ選手だった。予選での成松選手は、今ひとつの出来だった。フープでは落下もあり、14位通過。今年は関東から9人しか全日本ジュニアに進めないことを思うと、「今年は全ジュニは無理か・・・」と思われた。
しかし。
決勝の1種目目のリボンで成松選手は目のさめるような演技を見せた。「シングシング」にのってのリボンの演技は、じつは成松選手のおはこである。とにかくダンサブルな動きでは群を抜く成松選手の良さ、華やかさがもっとも発揮されるのがこの作品であるが、決勝での演技は会心の出来だったのではないか。その勢いにのって、クラブでもパーフェクトな演技。決勝種目だけでの成績は3位という快進撃で全日本ジュニア進出をもぎとった。
成松選手の魅力は、そのキレのよい動き、思い切りのよい手具操作(フープでは7~8回投げている! それも投げ受けが難しいものが多い!)、リズム感のよさ、いきいきとした表情、曲に合った動きやポーズの決め方など。とにかく見ている人が楽しめる、そんな演技を見せてくれる選手である。さらに、今回の決勝での追い上げで見せたギリギリに追い込まれたときに見せる勝負強さにも卓越したものがあるように思う。私が町田RGのいちばんの良さだと感じている「踊っている!」と思える演技をするという点で、この成松選手は非常に優れていると思う。
もう1人、その点で常に目を引く選手がいる。関東ジュニアでは惜しくも13位で全日本ジュニアには届かなかった管家ひとみ選手だ。 管家選手の演技も、メリハリがよくとてもチャーミングだ。柔軟性にも恵まれていて、ジャンプの滞空が長く、そり系のジャンプの美しさがとても印象に残る。また、難度以外の動きがよく決まる選手であり、発表会などの集団演技を見ていても動きの良さで目を引く。いわゆる「踊れる!」ところが私はとても好きな選手だ。今年は中学3年生だったのでラストチャンスの全日本ジュニアにぜひ進んでほしかったが、いつくかのミスが惜しかった。ただ、まだ全中というチャンスが残っているのでぜひ頑張ってほしいと思う。
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