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2013 インターハイに向けて~島田工業高校
3月の高校選抜大会から気になっているチームがある。
静岡の島田工業高校だ。
高校選抜大会では、男子の試技順2番だった。
まだ、大会序盤で観客席の空気もまだどことなく緩慢な時間帯での登場。しかし、その演技はたしかに会場の空気をきゅっと引き締めるだけのインパクトをもっていた。
「島田工業高校」は、たしかにインターハイの常連校であり、毎年、「そこそこうまいチーム」だということは私も知っていた。
だが、同時に、「そこそこうまいが、オーソドックスな演技で、それほど印象に残る演技ではない」ということも知っていた。
だから、高校選抜のときも、良くも悪くも、「いつも通り」の演技なんだろうと思って見ていたのだが、演技冒頭から、「えっ? これが島田工業?」という驚きの連続だった。
例年のチームと能力はさほど変わらないんじゃないかと思う。
いや、選抜の段階では夏のインターハイのときよりは、力は落ちていたのかもしれない。が、それを補って余りあるほどに、いつもとは違う島田工業だったのだ。
一言で言うなら「かっこいい」! つけ加えるなら「洗練されている」!
そして、「工夫されている」 じつに魅力的な演技だった。
最近の男子新体操のトレンドをほどよく取り入れつつ、本来、島田工業がもっているオーソドックスな男子新体操の良さも感じられる、とてもいい作品で、しかも実施の面でも目立ったミスはなかった。
得点は17.400。印象よりはやや低いような気もしたが、試技順2番ということも考えれば、まずまずだったかもしれない。
結果、高校選抜で島田工業は7位だった。上の6校は小林秀峰、神埼清明、井原、青森山田、恵庭南、盛岡市立という上位常連校だったことを考えると、かなりの健闘だ。
そして、私は、もう一度、この演技を見る機会を得た。
5月にユースチャンピオンシップと同時開催された男子団体選手権だ。
島田工業はここにもエントリーしてきた。
このときは試技順3番。
島田工業の前が、優勝候補の埼玉栄高校で、埼玉栄はすばらしい演技を見せ、会場が沸きに沸いた。
その直後にフロアに登場することになった島田工業だったが、彼らの演技は会場の空気をしっかり自分達のものにすることに成功した。
独特な入りの技で意表をつき、その後は、動きをしっかりそろえて見せる。そろっていることがわかりやすい徒手の部分はもちろんのこと、今年の島田工業の演技は、その隙間を埋める動きのそろい方が絶妙なのだ。そして、その動きが、うまく音をとらえ、見る者をぐっと引き込む力をもっている。
高校選抜のときに感じた、あの「おおっ?」という感覚は、やはり間違っていなかった。
今年の島田工業は、ひと味違う。
この作品は、この演技は、今までの島田工業の殻を破るものになる!
この団体選手権の演技で、私はそう確信してしまった。
団体選手権では、じつは惜いミスがあった。鹿倒立で1人動いてしまったのだ。しかし、それでも18.025で3位。
島田工業にとっては、男子団体選手権初のメダルだった。
これは、インターハイがますます楽しみになってきた。
そう思った私は、今年の島田工業の変化の秘密を探るべく、先日、島田工業を訪ねてみた。
静岡は神奈川県の隣だから、近いもんだと思ってうっかりJR各駅停車で向かったら、思った以上に遠かった。
静岡県と言っても島田まで行くと、むしろ愛知県のほうに近いのだと、今回の旅で思い知らされた。
しかし、それだけの長旅をしても、今の島田工業は、行ってよかったな、と思わせるチームだった。
島田工業高校は、JRの最寄り駅からはかなり近く、便利な場所にあった。駅から学校に行く途中で見つけたお寿司屋さんで、大満足なランチを食べて、いざ島田工業へ!
校内をきょろきょろしながら、進んで行くと、あった!
新体操マットの敷かれた小さな体育館が。
そして、そこには軽く10人以上の部員達がいた。
今シーズンの島田工業の演技は、そのステキさで私を驚かせてくれたのだが、島田工業の練習を見て、もっとも驚いたのが、その部員数だった。
この日は、テスト前で集合がばらついていたため、私が最初に見たときは10人くらいだったが、じつは、3年生が6人、2年生8人、そして、1年生はなんと10人!
マネージャーも3人もいる。
部員が24人いれば、頑張れば団体が4チーム組める。
私も、いろいろな高校を見て回っているが、こんなに部員が多い高校は、そうそうない。
「赴任した最初の年は、3年生が4人い
るだけで、2年生はゼロでした。その年は、人集めに苦労しました。」
と語ってくれたのは、島田工業監督の鈴木康正だ。
国士舘大学を卒業してすぐに島田工業に赴任し、それから16年、ずっとここで男子新体操部を指揮している。
鈴木が言うには、最初の年こそ人集めに苦労したそうだが、それからはずっとほぼ今年と同じくらいは部員が集まってくるのだとか。
ただし、ほとんどが未経験者だ。
たまに器械体操経験者がいることもあるが、「ジュニアから新体操をやっていた」という子は、過去に何人もいなかった。
仮にもインターハイ常連校なのだから、初心者には敷居が高くはないのか? と思ったが、鈴木はさらりと言う。
「部活体験の時期に、体育館の前を通った子は、どんどん引っ張りこみます。やってみれば楽しいと思ってくれますから。」
さらに、
「初心者から始める子がほとんどだから、新入生は、先輩達を見て、あの人でもできるんだったら、自分もできるじゃないか、と思うみたいです。」
そうして集めた部員達に、鈴木はまさに「前転から」教えるのだそうだ。
それでも、そんな初心者軍団が、見る見る上達する。
今まで私が見た島田工業の演技も、たとえば井原や青森山田のように洗練されているかといえばそうではなかったが、しかし、初心者軍団というほどの危うさを感じたことはなかったと思う。
「タンブリングも徒手もそこそこできる」そんな印象をもっていたのだが、それがほぼ全員が高校から新体操を始めた選手達のチームだったとは、かなりの驚きだった。
初心者を、インターハイで見劣りしない演技ができるレベルまで引き上げるのだから、練習もかなりきついのではないかと思うが、それでも毎年20人からの部員が集まり、新体操を続ける。
この鈴木康正は、そんなチームを16年間率いているのだ。
それは、決して派手ではないが、すごいことじゃないだろうか。
そんな島田工業のチーム事情を聞くと、今までの作品の「オーソドックスさ」にも合点がいく。
鈴木監督の口からも、「もとは初心者の集まりだから、いつもは、とにかく彼らにできることで、いちばん確実に点数になることで作品を構成して、あまり細かな動きや凝ったことは入れないんです。そうしないとまとめきれないから。なにしろ、何年か前には、インハイ本番の途中で演技を忘れちゃった!なんて選手もいましたから。うちのチームは、素人の集まりだから、何が起きるかわからないんです。」という言葉が出た。
それなのに、今年の作品は今までとはかなり印象が違っている。
それは、なぜなのか?
「去年のインハイで、うちは実施は悪くなかったと思うんですが、点が伸びなくて。それで、いろいろな先生にアドバイスをもらったんです。今の新体操の傾向とか、どういうところが評価につながるのか、などを。」
今までは、「そこまで欲張れない」と断念してきた「動き」を、いよいよ取り入れていかないと、もう今より上を目指すことはできそうにない。
だったら、今年はやってみよう!
そう思ったのだと言う。
「たまたま今年のメンバーは例年より柔軟性には恵まれていたし、とても練習熱心なメンバーなので、彼らならやってくれるんじゃないか、という気持ちもありました。」
実際、この作品を作り始め、形になってくるに従って、選手達の練習には熱がこもってきた。
「うちは土日の練習は午前で終わるようにしているんですが、彼らは午後もずっと自主練をしています。
だから、練習では合っていなかったところなどを、合わせておけと言えば、合うまでずっと自分達でやるんです。」
そんな彼らだから、鈴木監督は、「今年は、まず構成を考えて、それができるようになるまでやる」ことができたのだと言う。
今回の構成に関しては、ほとんが鈴木監督が考えたものだそうだ。
「残念ながら、子ども達のほうからの提案はなかなか出ないので。」
そして、鈴木監督は、構成を考える際に、他のチームの演技の動画などを見ないようにしているのだそうだ。参考にするのは、ダンスや太極拳など、同じ体を動かすものでありながら、まったくの別ジャンル。そうしないと、知らぬ間に他チームの影響を受けてしまう。それが嫌だから、「あえて見ない」のだと言う。
そうして鈴木監督が練りに練った構成には、彼が今まで「やってみたかった(やらせてみたかった)もの」がいっぱいつまっている。そんな作品になった。
例年よりも、「動きで見せる、同時性の見せ場もつくる」ことを意識したこの作品を、おそらく選手達も気に入っているんだろうと思う。
選抜大会、団体選手権と見るたびに、精度も上がっているが、なにより選手達が自信をもってやっていることが伝わってくる。
彼らも、「今までとはひと味違う作品」への挑戦を、楽しんでいるんだ。
長い自主練だって、きっと楽しいからやっているんだ。
鏡の前で、自分達の姿を映して見て、「オレたち、かっこよくない?」なんて騒ぎながら、きっと楽しく、楽しいけれど「より上」を目指してやっているんだな、と今回の練習を見て、改めて思った。
そして、なんと言ってもこのチームには、来年、再来年の出番を待つ後輩達がたくさんいる。レギュラーチームのほかに2チーム組んで練習をしていて、大会にも出るというなんとも頼もしい後輩達だ。
いや、現時点ではまだまだ頼りない1年生も多いが、そんな彼らにとって、かつては自分達と同じ初心者だったのに、今、これだけの演技ができるようになった先輩達の存在は、どんなにか励みなるに違いない。
そんな先輩達がいるから、きっと彼らも頑張れるのだ。
ほぼ全員が高校始めというチームが、毎年のようにインターハイに出場していること。
そして、常に中堅レベルの演技をしていること。
さらに、今年はより上をうかがえそうな力をつけてきていること。
こんなにたくさんの部員がいること。
ある意味、偉業と言ってもいいほどのことを、黙々と淡々とまっとうしている指導者がいること。
すべてが、いい。
インターハイで、彼らには、ぜひ最高の演技を見せてほしい。
鈴木康正という、この実直で、稀有な指導者のためにも。
全国にはまだたくさんいるだろう、高校に入ってから新体操を始めた選手達のためにも。
頑張れ! 島田工業!
<「新体操研究所」Back Number>
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