2010全日本選手権~大学生(女子①)
☆山脇麻衣(町田RGもりの)
あの小さかった山脇麻衣がついに大学生!今も小柄には違いないが年齢相応に女性らしさは少しばかり出てきたようにも思う。
思えば彼女は小学生のころから表現する、演じるという意識の高い選手だった。身体能力が特別高いわけでもなければ、とりたてて器用でもない。ただ、「踊ること=演じること」が好きでたまらないというエネルギーだけは小さな体にはおさまりきれず常に溢れていた。そして、そのエネルギーが山脇麻衣をここまでの選手にしたのだ。
山脇の魅力は1分半の作品の世界にどっぷり入り込む力だ。芝居がかった動きや表情は天下一品と言っていい。とくに指先と顎の動きがじつに表情豊かだ。音楽の生かし方にも長けている。山脇のフープの曲は海外の有名選手もよく使っているが、誰のどの演技よりも山脇バージョンがいい!と思うほどだ。
オールジャパンでもぜひその女優魂全開の演技を見せてくれることを期待したい。
☆岩倉 歩(日本女子体育大学)
故障に泣いた1年だった。
岩倉歩は、ジュニア時代から力のある選手ではあったが、トップ集団のすこし下くらいにいることが多い選手だった。全日本ジュニアでは2003年の10位、インターハイは2006年の12位が岩倉の最高順位だ。
しかし、日本女子体育大学に進学してからの岩倉はまさに快進撃を見せる。1年生で出場した2007年のインカレではいきなりの6位。2008年には10位とすこし順位を落としたものの、3年生になった2009年にはインカレ3位、ジャパン4位まで登りつめた。
大学生になってから開花したのは成績の面だけではない。高校時代まではがっちりとした筋肉質な体つきで、あまり表現力のあるタイプには見えていなかった岩倉は、見違えるように華のある選手に変貌したのだ。大学1年生のときの東日本インカレをDVDで見たときに、私は彼女が誰だかわからなかった。誰だかわからないけれど、日女にとてもステキな選手がいる! と驚いたものだ。それがジュニア時代から何回も見ている岩倉歩だとは、本当にわからなかったのだ。そのくらい、彼女は大学で開花した。
大学生活最後の年は、岩倉にとっては長く苦しい1年だったかもしれない。それでも、オールジャパンで岩倉の演技を見られることを嬉しいと思っている人はたくさんいるはずだ。音楽に乗って、小気味よく動き、ときにはコケティッシュな表情を見せ、ダンサブルにステップを踏む。ドキドキするようなスピード感あふれる手具操作にも挑戦する。そんな岩倉の演技は、この4年間、とても私を楽しませてくれた。私だけではなく多くの人がそうだろうと思う。
大学生最後の年がおそらく不本意な形で終わろうとしていることで、もっとも悔しい思いをしているのは本人だろう。だからこそ、最後に「岩倉歩らしい」魅せる演技を見せてほしい。
☆平田美沙紀(飛行船新体操クラブ)
立っているだけで絵になる選手。
平田はジュニアのころからそう言われていた。団体に入っていてもひときわ目立つ、そんなオーラが彼女の最大の武器だった。
しかし、2005年12月のオーディションを経て、フェアリージャパン入りしてからは、平田は決して恵まれた場所にはいなかった。見ているほうがつらくなったことも何度となくあった。それでも平田美沙紀は最後までやりぬいた。自分から勝負を捨てることはなかった。
あのフェアリーでの日々がなかったら、私の目には平田は「新体操の神様にはじめから選ばれているような恵まれた選手」にしか映らなかったかもしれない。しかし、彼女の強さやたくましさ、ひたむきさを知った今、平田が少しでも自分の満足のいく演技ができて、輝いて、いつの日かいい新体操人生の終わりを迎えられるようにと願わずにはいられない。
そして、彼女の演技は年々着実に円熟してきている。決して器用な選手ではないと思っていたのだが、今年のボールの演技はじつにボールがよく動き、よどみない。こんな演技をするようになったんだ、とインカレのときに胸をうたれ見入ってしまった。 大輪の花のような華やかさのある平田だが、まだ咲ききってはいない。そう、彼女はまだ進化の途中にいるのだ。
☆山本千尋(明治大学)
私が山本千尋を初めて見たのは、彼女が小学4年生のとき。第1回のクラブチャイルド選手権だった。そのとき、山本は優勝している。そう、山本千尋は、クラブチャイルド3・4年の部の初代チャンピオンなのだ。
そのときは、小さくて細くて色が白くて、ちょっと不健康そうに見えてしまうくらいの、ほんとに小さな小さな女の子だった。
ジュニア時代も、常に全日本ジュニアでも上位で活躍する選手ではあったが、私の中の山本千尋にはジュニアらしいはつらつとした印象はなかった。おそらく彼女はいつも生真面目すぎたのではないだろうか。踊り心たっぷりに、アピール満点の演技をするというよりも、きちんとやろう、ミスしないようにやろう、そんな気持ちにいつも押しつぶされそうになっていたのではなかったか。ジュニア時代の山本の演技は、いつも青白い顔をして、ゆらゆら、ふらふらとしていた印象が強い。
それが、ふっと殻を破ったように見えたのが、2006年のユースチャンピオンシップだった。このとき、山本は3位に入っているが、私は、その演技がじつに艶やかで表情豊かになっていたことに驚かされた。そして、大会後にインタビューをしたときに、自分の言葉で自分の考えをしっかり語れる山本の雄弁さにも驚いた。おとなしそうな印象をもっていたが、山本千尋は、じつに独立独歩な芯の強い選手なのだとそのときに私は知った。そして、それからぐっと好きな選手になった。
2007年、山本千尋は、明治大学に進学した。そして、4年間、山本千尋らしい魂に迫るような演技を磨き続けてきた。とくにここ2年くらい、山本の演技は、芸術の域に限りなく近づいていると感じる。誰よりも音楽に合った動きにこだわり、表情にこだわり、手具の動きにまでこだわる。そんな山本の今の演技は、一瞬一瞬が宝石のように輝いている。
山本は、今の時代の新体操選手にしては柔軟性には恵まれていない。また、イオンという強豪クラブにいたために、常に自分が中心というわけにはいかない状況もずっと味わってきていると思う。「新体操」が彼女にとって自分の存在価値を確認するためだけのものだったならば、とっくに辞めていたかもしれないと思う。嫌になっても仕方のない時期もきっとあったに違いない。
それでも、彼女は新体操を辞めずにいてくれた。それは、人からの評価、それも点数という評価よりも、自分が表現したいものを新体操で表現するということに憑かれていたからではないかと思う。つまり、山本千尋は新体操が好き、でいられた。それに尽きるのではないだろうか。
山本が、自分の可能性をあきらめずに新体操を続けてくれたおかげで、私たちは今、あの宝石のような演技を見ることができる。オールジャパンでは、4種目、いやできれば、1つでも多く。これが最後になるかもしれない、山本千尋の演技を瞬きもせずに見ていたい。
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