
「正しい身体」の呪縛をどう超えるか/あるいは超えないか
パラリンピックもあって、障がい者の活躍がニュースに取り上げられることが多い。車椅子バスケットボールに取り組むため、麻痺した片足を切り落とした選手の話を見て、障がい者であるかどうかの前に、スポーツに取り組む情熱に恐れ入った。私にはできないだろうな、と感慨深い。
そんな中、以下の記事を読む。
スポーツではないが、義足のアーティストとして、身体のあり方を問いかける作品を作る、片山真理さんの記事だ。この記事のキーワードを取り上げるなら、「正しい身体(障がいのない身体)を『追い求める』ことから自由になる」「身体への固執からの解放」「障がいのあるかもしれない子へ、何を与えうるか」という3つだと思う。3つ目に関しては、この投稿の趣旨ではないため述べない。
//「正しい身体(障がいのない身体)を『追い求める』ことから自由になる」
片山氏は文中でアメリカの法学者レッシグの『アーキテクチャ』の概念に言及する。『アーキテクチャ』を車椅子を使う人の文脈で具体的に言えば、「車椅子が通れないぐらいにでこぼこだったり狭い通路を作れば、車椅子の人の行動を管理できる」ということだ。
片山氏は現代日本の『アーキテクチャ』(社会を見れば「不作為」のアーキテクチャだらけで、不作為のアーキテクチャなんて概念が意味を持つのかは分からない。単に怠惰か能力武装の証であるのかもしれない)に適応することへの難しさを漏らす。そして、適応することは無理だという、諦念を持つようになったと述べる。
片山氏がそうした諦めを持たざるを得ない社会がある。それはそれで示唆であるが、保留しておく。
//「身体への固執からの解放」
片山氏の作品を見ると、義足のペインティングから始まり、自分の身体をモデル(※)としたもの、自分から切り離されたコンセプトグッズへと創作が移っているように見える。
※作品の一部という意味でのモデル。片山氏の作品の中心はやはり過剰な身体パーツの発露にあり、「正しい身体」を持ったモデルとしての自分は、背景に過ぎないように見える。デコレイトされた部屋、デコレイトされた「正しい身体」の部分としての自分、「正しい身体」ではない義足。
アートにおいて、自画像は主要なテーマである。セルフポートレート、セルフィ(自撮り)は、インスタなどの画像系SNSに氾濫している。
片山氏は自分をモデルにすることについて、「自分が作品の中の役割を最も忠実に演じることができる」と述べ、自分の作品がセルフポートレートと呼ばれることへの違和感を語る。これはこれで、そうなんだろうと思う。
片山氏の作品で、他の障がい者をモデルにした作品は、今のところはないように見える。(全ての作品を見たわけではないので、多くの作品では、と言うのが正しいのかもしれないが)
片山氏は個展を開くぐらいには名の知れたアーティストのようなので、作品のモデル募集を行えば、応募する人はいると思うのだけれど。まぁ、今後はそうした作品も出てくるのかもしれない。
少しわき道に逸れたので、話を戻す。
片山氏が「身体へのこだわりが薄れた」と語り、抽象的なグッズの創作に移る時に、その「身体」とは何なのだろう。
セルフポートレートの作品において、片山氏は美しいモデルとなる。作品の義足の部分を隠して見れば、それは単なる美しい女性のセルフィーでしかない。
レッシグは人々を管理する制度を、「法律」「規範」「市場」「アーキテクチャ」に分類した。この分類に基づけば、「アーキテクチャ」から排除された身体(義足)と、女性の美(デコレイトされた「女性らしい」部屋を含む)という「規範」によって歓迎される身体が、作品において共存している。
片山氏の作品は、フェミニズム的なものと評されることもあるらしい。(フェミニズムも時代によって大きく異なるわけで、「フェミニズム的なもの」というのは、雰囲気のワードであるとは思うが)
社会通念上は排除される部分に「美しさ」を見出す、というのはアートではあると思うが、ともすれば社会通念上まかり通る美しさの中に回収されがちである。「美しいもの」を乗り越えることが片山氏のテーマかは分からないが。
「身体」の呪縛と語る時に、(アーキテクチャ的な)「正しい身体」であるか、(規範的な)「身体」であるか。現代社会において前者がなされえたと言えはしないが、後者への視線が欠けていても、それはまた正しい作品に留まるだろう。
そうした点において、片山氏がセルフポートレート風の作品からコンセプトグッズに創作を移して、どのようなものが生まれるのか楽しみだと思った。
いいなと思ったら応援しよう!
