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産んだだけだもん!

娘が産まれたばかりのこの写真の頃、オットとの会話でとっさに口をついて出た言葉だ。

その頃まだ私は、そのふにゃふにゃとした存在が何を欲して泣くのかがわからずに、オロオロしていた。オットはそんな私に、さも知ってるのが当然だと言わんばかりの全幅の信頼を込めた無邪気な眼差しで「どうしたのかな?」と聞いたのだ。

オットはいきなり地雷を踏んでしまった。「どうしたのって?私だって産んだだけだもん!わかるわけないじゃない!」ととっさに口をついて出たのだが、そのあと妙な沈黙があった。私に期待を裏切られて、オットの目には軽い絶望感が漂っていた。

私はただこの体から産み出しただけで、別にその未知なる存在と意思疎通ができているわけではないのだが、どうして男っていうものは、母というだけで全知全能だと思うのだろう?

「良い母伝説」はこうして端を発するのかもしれない。いわく「母なら〇〇出来るはず」ってやつだ。「母なら産まれたての赤ちゃんの気持ちがわかって当然」というのもその一つだと思う。自慢じゃないが、私はまったく子育てに向いていないと思う。娘が欲していることを先回りしてわかったことなんて、あまりない。ギャン泣きされてからやっと「あ、おなか空いてたのか!」と理解するなんてこともしょっちゅうだった。

そんな毎日を過ごしつつ私は悟った。これからは、この未知なる生き物のリクエストにお応えするべく、日夜邁進していかなければならないことを。「欲しいなら欲しいとはっきり言いなさい!」とは言えないもどかしさでいっぱいになりながら、半ベソかいて毎日トレーニングを受ける新入社員よろしく、孤軍奮闘する日々だった。

私があまりにも気が利かないせいか、オットはよくやってくれた。こうして我が家は二人協力体制での子育てがスタートしたのである。別に狙ったわけではないが、結果的に見れば、私が出来の悪いポンコツ母さんだったから、オットが素晴らしく協力的なのかもしれないなと思う。

女は子供を産んだからといって、すぐに母になれるわけではない。そこのところ、男性諸氏にはよく理解して欲しい。母には母性があるとは言うが、母性にプラスして、やはり毎日のトレーニングで習得していくものも大きいと思う。男がすぐに父になれるわけではないのと、あまり変わらないのではないかな。

「女だから子育てがうまいはず」なんて幻想を持っている男性には申し訳ないが、女だけが出来るのは母乳をあげることだけ、くらいの気概を持って、同じくらい出来ないのに頑張って母になろうと努力している女とともに、父への道を歩んで欲しい。

と、いまだに発展途上の母である私が、最近思うこと。


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神谷 玲衣
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