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小説を書くこと 仕事をすること

もうすぐ発売になる『植物癒しと蟹の物語』の執筆を通して得たもの、この本ができる経緯、そして著者である僕自身について、ほんのすこし書いてみたいと思います。

【本のあらすじ紹介】

『植物癒しと蟹の物語』
傷ついた植物たちの声を聴き、その言葉に耳を傾けることが生業である「植物癒し」の小さな旅の物語です。植物たちと言葉を交わす旅路の先で、植物癒しはある不思議な生き物と出会うことになります。

これは、がんになった家族との別れが近づいている一人の友人とその家族のためにつくった物語です。このお話を書こうと決めたのは、なにより自分のためでもありました。

中学一年生の頃、学校というものに心も体もすっかりくたびれてしまい、どうにか高校を卒業してから22歳になるまでの間、僕は力尽きて何もすることができませんでした。唯一、続けていたのは本を読むことと、日記を書くことぐらいでした。

いよいよ気がどうかしてしまった僕は一度入院することになりました。そして4ヶ月後に病院を退院してから、小説と呼べるのかもわからない短いお話を書き始めました。その頃の僕はどんなに小さくてもいいから、何か自分にできることを見つけたくてたまらなかったのです。そのたまらなさが僕に小説を書かせました。

お話を書き始めた半年後、小説が賞を頂き、書籍になりました。受賞したことで僕が本当に得たのは「貴方は何者ですか?」と訊かれたとき「何者でもありません」と下を向かず「小説家です」と名乗ってよい権利でした。ずっと名無しだった自分に名前がついたようで、不安を抱え続けていた僕はようやく心から安堵しました。

1作目までは、ただ自己再生のために小説を書きました。でも、2作目を書くにあたって、それが「仕事」になったとき、これは一体、何のための仕事なんだろう? と真剣に考えなければなりませんでした。

まともに働いたことのない僕は、小説云々の前にまず「仕事」をしなければならないと思いました。それは、売れるお話を書く・読者を楽しませる、その前にもっと根本的に人のために何かをする、ということです。

信頼してくれる人へ報いるために努力をし、自分にできることを通じて何かを生み出し、最後まで責任を持って送り届ける。そして、その一連の作業を成し遂げた証として相手からお金を頂く。そういうことをしてみたかったのです。

寛大な友人が、僕に最初の機会を与えてくれました。その友人は出会ったときから、いつでも僕の話を楽しそうに聴いてくれます。彼女とお喋りすることは、ほんの少し前まで元気がなかった僕の大きな助けになっていました。

彼女は「末期のがんを抱えている義理の息子の生きた証を物語の形で残してほしい」と言いました。そして、僕は『植物癒しと蟹の物語』というお話を書き、一冊の本に仕上げて、彼女に贈りました。

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友人とご家族の了承を得て、そのお話が今回、書籍として出版されることになりました。たくさんの人に届いてほしいと願っています。でも、なにより大切なのは、やはりお話を書かせてくれた友人に報いることです。

物語を書きながら、僕は彼女と家族がその言葉によって傷つかないかどうかできる限り考える努力をしました。その重みを意識しているとき、僕は自分が責任を持ってまっとうな仕事をしているように感じました。

自分が傷つくことよりも、誰かを傷つけることの方が、もっとつらいことなのだと、少しずつわかってきた気がします。未だ誰かを傷つけたり、痛みを見逃したりすることばかりですが、小説を書くことを通じて、一歩ずつでも人の苦しみへ目を向けることができたなら、と考えています。

発売にあたって、たくさんの人がコメントを寄せてくださいました。本当にありがとうございます。お話を書いて出版することは、いつの間にか、何もできなかった僕に少しずつ仕事を、ひとりぼっちだった僕にいくつもの繋がりを与えてくれました。

たくさんの人に届くものを書きたい。でもその「たくさん」というのは、大切な誰かに想いを寄せ、悩んだり苦しんだりしながら、ゆっくりと時間をかけて、大きく広がっていくものではないかと思います。

そうやって小説を書くことが、僕にできる最初の仕事でした。よき物語を生み出すこと、書く仕事を通じて人と関わる努力を、これからも続けていきたいと思います。もしよろしければ、この本を手に取ってページをめくり、植物癒しの語る言葉に耳を傾けてみてください。

小林 大輝

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小林 大輝 / Hiroki Kobayashi
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