わが出しし文ども『エスペラント訳 源氏物語 一~五』Rakontaro de Genĝi partoj Ⅰ~Ⅴ【やました としひろ】
紫式部 著、やましたとしひろ 訳、belmonto出版、2020-23年、
各巻約400p、第一部特価3100円、ほか2200円から(税込)
日本を代表する古典文学といえば『源氏物語』。しかし高校の古典ではむずかしい原文でならい、また現代語訳でよんでもおもしろいとはおもえない。よみとおして源氏物語がどんな内容なのかわかったひとはすくないのでは?「日本語でもよんでないのにエスペラントなんてとても」というそこのあなた、ぜひこのGenĝiをおよみくだされ。メンドウな敬語法や制度習慣などからはなれて、すっとよめるハズ。
2011年8月にISOA(東アジアILEI〈国際エスペランティスト教育者連盟〉セミナー)が天津であり、そのときはじめてLaŭlum(李士俊 Lǐ Shìjùn)氏にであった。「ああこのひとが中国の長編古典をいくつも訳したのか」と感銘をうけ、ますます「日本の長編古典を翻訳したい」とおもった。
最初に源氏物語の翻訳にかかったのは2016年4月、短かめの第八帖『花宴』。源氏が入内前の六の君(朧月夜)と宴の夜、契る帖である。
重訳ではなく、直接古文から訳出した。底本は小学館『日本古典文学全集 源氏物語 一~六』(昭和45)である。『新潮日本古典集成 一~八』(昭和60)も参照した。必要に応じて与謝野晶子訳や谷崎潤一郎訳・英訳などもみて、くいちがう箇所は自分で判断して訳をきめた。
和歌は四行詩に改変してできるだけ韻を工夫した。中国の人名は中国の韻書類と韓国語読みを参照し、白楽天 Pak Laktenのように当時の音を再現した。仏典や襲式目・香なども訳すのにてまどった。また多くの現代語訳で高麗を高麗とするが実は渤海をさす。
翻訳31帖めに『桐壺』にとりかかった。すでに藤本達生訳があって「こんな訳はじぶんには到底できない」と悲観してさきのばししていたのだ。結局まったく参照せずにこの帖を訳した。これで第1巻ぶんの原稿がそろった。s-ro Rob Moerbeekにkontrolo(チェック)を依頼したところ緻密な訂正をしてくれた。この件に3か月かかった。近くの印刷所で300部見積をとったら税込110万円といわれて驚愕し、大阪のより安い印刷所をさがしだした。こうして『源氏物語一 Rakontaro de Genĝi Parto I 』ができた。2020年6月27日の70歳の誕生日のこと。すぐに全部はけるとおもったが、在庫がまだ100部残っている。
2023年12月全帖の翻訳を完了。『一』にこりて、二~五部(対訳形式)はAmazon Kindleで割安な電子版と紙版(オンデマンド印刷)をだした。この方法は自己負担なく在庫をかかえない。だが特価販売のためとりよせた数十冊以外、Amazonではまだ数冊購入されたにすぎず、残念だ。
病院がよいがふえるなか、オサラバのまえに完訳できた。これを踏み台にして後人がよりよい訳をうみだすよう期待している。
申込みサイト:https://x.gd/gVvK6
(月刊誌『エスペラント La Revuo Orienta』2024年3月号 p.23より)