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わたしの出した1冊の本『エスペラント 日本語を話すあなたに』【藤巻 謙一】

『エスペラント 日本語を話すあなたに』の表紙

藤巻謙一著、JEI、2018年、192p、
800円+税、ISBN 978-4-888-87100-6


この新書はエスペラントに懐疑的な読者を思い浮かべてまとめたものです。エスペラントにまだ接したことのない人や、学びはじめて間もない人がこのことばに懐疑的な意見を持つのは当然のことです。また、知識がある人ほど、ものごとに批判的になるのが普通です。「うたがい」は知性の「あかし」だとも言えます。「人工言語だから表現力が劣るのではないか」という疑問や「文化がない」という意見はよく目にします。

手軽に読める新書サイズの本で、エスペラントに対する誤解を解くことを目指しました。エスペラントは、ほかのことばより劣っているわけでもなく、不規則を取り払い文法が簡潔になってはいるものの、すでに「机上の試案」でもなく、いま使われているたくさんのことばと同等なものであることを示そうとしました。

エスペラントは、英仏独語など西洋のことばと比較されることが多いです。いろいろな言語に長けた人が多いためか、エスペラントを話す人たちにも、西洋のことばと比較して論じる傾向があります。

たしかに語彙の点からすると、ラテン語を源とすることばとの類似点は明らかです。しかしその構造となると、どうでしょうか。見かけ上は大きな違いがあるものの、人間同士のコミュニケーションの道具として、どのことばにも共通な基礎があるのではないでしょうか。

この本では、造語法や文法の説明に、日本語との比較を多くとり入れました。日本語を母語として話している私たちは、たいていの場合、その仕組みや文法を知りません。文法などを意識せずに使うことができるからこそ母語であるとも言えます。無意識に使っている母語の構造を知り、エスペラントとの相違点だけではなく、類似点に注意を払うことには、学習の上でもきっと意義があると思います。その意味で、この本は、エスペラントをすでに学んだ人にとってもお勧めできるものと信じます。

第8章では、人工知能が目覚ましく発達する中で、エスペラントがこれから向かうであろう方向について私なりの展望を述べました。お手にとっていただければ幸いです。

(resumo要約) Tiu ĉi libro celas unue homojn, kiuj estas skeptikaj al Esperanto. Utila ankaŭ al tiuj, kiuj jam eklernis Esperanton, ĉar ĝi komparas la japanan kaj Esperanton, kaj klarigas la similecon kaj malsimilecon inter la du lingvoj. En la lastaĉapitro la verkinto montris sian perspektivon de Esperanto en la tempo de Artefarita Inteligento.(Huzimaki Ken’iti)

はじめに

 「エスペラント」と聞いて、それが19世紀後半に発表された国際共通語だとわかる人はまだ少ないでしょう。このことばにふれたことのある人は、もっと少ないに違いありません。
 エスペラントはザメンホフという人が基礎を作った「人工語」です。当時ロシア領だったポーランドで、ユダヤ人としてはげしい民族差別を経験したザメンホフ*1は、民族の和解と共存を目ざし、だれにとっても習得しやすく公平な「橋渡しのことば」として、1887年にエスペラントを発表しました。
 こう聞いて、おおかたの人の頭に次のような疑問が浮かぶのは自然なことです。私自身、このことばを学び始める前には同じ疑問を持ちました。
・ことばを作るなんていうことができるのか。
・話しことばとして使えるのか。
・文化的背景なしに、ことばが成りたつのか。
・普通のことばより表現力が劣るのではないか。
 考え深い読者は、さらに次のような疑問も持つかも知れません。
・世界のことばをエスペラント一つだけにすることを目ざしているのか。

*1 Ludoviko Lazaro Zamenhof(ルドビコ・ラザロ・ザメンホフ)1859-1917.
サンプルページ①(p. 3)
・いま使われているのか。
・将来広く使われる可能性があるのか。
・英語を国際共通語とするのではいけないのか。
・ヨーロッパの人たちにだけ有利なことばではないか。
 エスペラントの概略を紹介しながら、これらの疑問に答えることをこの本は目ざしています。
 使用人口の大小にかかわらず、また、書かれた文献の多少にかかわらず、どのことばも、情報を伝え意見を交換するための道具です。そのことばを話す人にとっては、心の奥深くに刷り込まれた思考のための大切な道具でもあります。人々のあいだで実際に使われている以上、どの言語も一つの体系として調和がとれているはずです。だから、ことばには優劣がありません。
 この本で私は、エスペラントがほかのことばよりも優れたものだと言うつもりはありません。地球上にあることばの総数は3千とも6千とも言われていますが、エスペラントもまた、そのようなことばの一つであることを知っていただければと願っています。日本語を話す私たちにとって日本語が大切なものであるのと同じように、エスペラントを話す人たちも、エスペラントを大切に思っているということがわかっていただければと思いま
す。
 エスペラントが学びやすいものであるかどうか、十分な表現力を備えたものであるかどうか、そして、人々をつなぐ国際共通語として役にたつかどうかを、偏見や先入観にとらわれず、読者のみなさんに判断していただけ
サンプルページ②(p. 4)
れば幸いです。
 社会言語学的な視点や、国際語学的な観点から見たエスペラントの紹介は他書に譲り、この本では、私たちの母語*2である日本語との相違点や類似点を示しながら、ことばとしてのエスペラント自体を、少し詳しく紹介します。概略だけが知りたい読者には、例文が多くわずらわしく感じられるかも知れません。そのような場合は、例文の部分を読み飛ばしていただいても差しつかえありません。
 本文中に出てくるエスペラント文には日本語訳を添えましたが、もしも、どの単語がどの訳語にあたるのかわからない場合は、巻末につけた単語リストをごらんください。
2018年9月1日
藤巻謙一

*2 家庭や地域社会で口づてで身につけ、文法を意識せずに、自信を持って使えることばが母語です。(→8-1-1/p.161)[矢印は参照先の節とページを示します:節番号/ページ]
サンプルページ③(p. 5)

本書正誤表
p.177 基礎日本語文法(改訂版)の著者の一人
  岡窪行則→田窪行則

(月刊誌『エスペラント La Revuo Orienta』2018年12月号 p.21より)


月刊誌『エスペラント La Revuo Orienta』2018年12月号

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