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ルパン三世 PART5&「今も燃えているか」 最大の敵


男女の心に住み着いた喪われた過去の恋人やパートナーの記憶は
生きる者にとって普遍的なテーマで
作者監督の唯一のオリジナル
「DEAD OR ALIVE」でもテーマになっている

ヒロインは亡くなった恋人の思い出に囚われており
ルパンはその恋人に変装することで、彼女を過去から救い
現実へ、未来へ引き戻してやる


パンチ先生が描いた、ヒーローにとって女を救うということは
女の心を救うということ

そして男にとって最大の敵は、女が愛した過去の男であり、死んだ男

死んでしまった相手は
その相手との思い出はどこまでも美しく美化されるから
終わりがない、際限がない

生きている者なら倒せばいい
でも死者を倒すにはどうすればいいのか
死者こそが最大の敵


それはルパンたちが殺しをし
常に死の側にいて死を見つめているからこそ出て来る問いでもあり
ヒーローだからというだけではないかもしれない

ルパン三世の世界にある死をも厭わない徹底したリアリズム
リアリストの先にいる見えない敵
死者の存在


パンチ先生は「DEAD OR ALIVE」で問いかけた
ヒーローは何かというテーマを

「今も燃えているか」で、今度はルパン自身の問題として
再び取り上げたのかもしれない


ちなみに、パンチ先生の他作品には、傷ついた男が相棒に介錯を頼んで「最後はお前の手で死にたい」という漫画がある。先生の死生観をよく表していると思う。

プーンが不二子の手によって死んだことは、自分を追いかけて来た男への不二子からの最大の愛でもあって、挑発したルパンのはなむけでもあるのだけど、そんな過去に戻って今度はルパン自ら手を下したのは、ルパンの女への執念、狂おしいほどの愛と献身を語るにふさわしい内容だと思う。


エロスとタナトス。人が死にたいと思うのは、本質的には愛に包まれたい、と願うことと同じであって、ルパン三世の物語で、死が濃くなるほど愛も深くなるのは自然なこと。


オリジナルの作品で、共通したテーマがあるのは、それがパンチ先生のテーマの一つでもあったかもしれない。


「DEAD OR ALIVE」では、ルパンは亡き恋人に変装し、トリックによって過去への幻想を解いた。

「今も燃えているか」では、タイムスリップというパラレルで、過去を変えることで未来を変えようとした。


どちらも死者を相手にするとき、ルパンの持つトリックやアイディアが大きな武器になっている。リアリストにとって死者は幻想でしかないのだから、幻想にはトリックを、知恵を使って、呪いのように死者の幻想に囚われた女たちを解放しようとする。


ルパンたちが徹底したリアリストで、それ故悪事によってこの世を謳歌する一方、リアリストだからこそ、残された者を蝕む死者の誘惑に対して、どこまでもクールに対処出来る。

これもまたアンチ・ヒーローであるルパンの、もう一つのヒーロである理由。ルパンの悪の二面性。

己の欲望に従い、どこまでも生を肯定するルパンたちだからこそ、人の心に住み着いた、死の世界の幻想を、誘惑を、呪縛を解くことが出来る。

死にたがり屋どころか、どこまでも自分の力を信じる人間賛歌、人生賛歌だからこそ、どんな窮地に陥っても、女を、人々を、死の危険や誘惑から救うことが出来る。


悪霊退治の死神型のヒーローは、アニメでも実写映画でも様々な作品がある。

それらがよりわりやすく見えない世界の存在との対決を描くのに対し、ルパンはあくまでも人の世の人の心の問題として、それでいて魔術師のように奇想天外なトリックやアイディアと攻撃力で、生と死の境界線を守り続けているように思う。


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思えばパート5からのルパンの敵、たとえばEP2の古城に籠もったテロリストたちとの対決は、まるで死にたがっている魂、悪霊のような敵との戦いだった。

月明かりの下、古城の夜の闇の中での戦いは、まるで開きかかった地獄の扉を前にして、ルパンたちが死神のように必死に聖書のようなノートを巡って、悪霊たちを追いかけていたようだった。


ルパンが悪霊を棺桶に閉じ込め封印し
アルベールが敵のワイヤーを使って
キリストのように十字に吊るし上げる

死神共の聖戦、悪霊退治では
お宝の秘密の黒革の手帳は、聖書の暗示だった


サイボーグのように肉体改造した若い女、片目のない性別不明の子供、仮面と帽子を被り生身の姿をさらさない者、義手のラスボス。

敵は誰一人として「まともな肉体」を持つ者としては描かれていない。古城を根城にし、半身半霊のような不気味さがあるのは、EP2の戦いがルパンたちにとって悪霊退治でもあったからだろう。


EP2は、パート5の中でも職人技のように細部まで行き届いた傑作。プロットの秀逸さやイマジネーションの豊かさ、全体の統一感は、パート5の中でも白眉だと思う。

アルベールとの再会がテーマの、パリの冬空のようにひたすら暗く陰鬱なEP2。カソリック文化で築かれたパリの街を舞台にしたために、テロによる脅威に直面し、ルパン一味とアルベールの戦いがまるで聖戦のような雰囲気を持ち、宗教的なメタファーに溢れているのは、脚本家がどこまで意識的だったのか興味深いところ。


聖書のメタファーでもあった黒い手帳には、この世界を崩壊させる支配者共の悪行が記されており、ルパンはこのエピソードで手に入れた手帳の内容を、シリーズの最後で公開して、ヒトログに支配された既存の世界を崩壊させる。

聖書が悪事の羅列のメタファーになっているのは、強烈な皮肉(笑)
そして、その聖書に描かれていた真実が明らかになった時、現在の世界が崩壊するというわけだ。


また、その手帳が隠されていたのが、ピカソの落書きのような絵のキャンバス。

事の発端は、孫の絵をピカソの絵としてすり替えてしまったという嘘だけども、近年名画の修復が素人によって落書きのようにされてしまい、聖人をモデルにした名画の権威が失墜したのが話題になっている。


パリを舞台にしたエピソードが新鮮で、リアリティがあったのは、時代とのシンクロが大きかったのかもしれない。

このエピソードがパリで、フランスで、キリスト教文化圏でどのように受け止められたのか興味深い。


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