高度プロフェッショナル制度に関して素人同然の厚生労働省行政について実態を明らかにする。年収要件について国会や労政審で散々指摘されているにも関わらず、指摘事項に全く対応していない。
高度プロフェッショナル制度とは
高度プロフェッショナル制度とは、年収1075万円以上の労働者に対して、一定の条件を満たした場合に適用される制度のことである。高度プロフェッショナル制度を導入する会社は、管轄の労働基準監督署に相談しながら導入を進めているが、相談先となる労働基準監督署の理解自体が不足している。厚生労働省から労働基準監督署への通達も不足している。
選択制確定拠出年金における賃金の取り扱い
企業型確定拠出型年金の事業主掛金は賃金には含まれない。
選択制確定拠出年金は、企業型確定拠出年金のひとつで、社員が給与の一部を確定拠出年金に拠出し、老後の資産形成を自らの意思に基づき、積み立てていくことが可能な制度である。確定拠出年金に拠出せず、現行の給与をそのまま受け取ることもできる。確定拠出年金の拠出については社員自身の判断で決定できる。
選択制確定拠出年金を採用するとき、1075万円以上という年収要件から外れる可能性が出てくる。高プロ同意書にて給与年額1080万円と記載した場合に、選択制確定拠出年金の掛け金を55000円で設定した場合は以下の通りで、賃金が1075万円未満になる。
2022年3月17日、三田労働基準監督署に対して、確定拠出年金の掛金は賃金に含まれないため、違法状態ではないかと相談した。窓口の相談員は、10分程度、事務所の奥の複数職員に確認したうえで、「事業者掛金ではなく、一度賃金として支払ったうえで従業員掛金ではないか」と明白に間違った素人回答をした。素人相手に相談できるわけがない。
納得できず東京労働局労働基準部賃金課にも確認をしたが、労働者が処分(消費や納税)できる給付を賃金と言っており、掛け金は資産管理機関に納付されるため処分できないということから賃金には相当しない。選択制確定拠出年金も当然、賃金に該当しない。
これについて取り扱いを東京労働局労働基準部監督課の高プロ担当者経由で厚生労働省本省に問い合わせたところ「年収要件が満たさなくなった場合、高度プロフェッショナル制度は遡って不適用になる。労働時間(健康管理時間)から時間外労働手当を再計算してほしい」という旨の回答であった。
途中退職における期末賞与の取り扱い
賞与の取り扱いについては、高プロ制度に関わる参議院の審議でも再三議論されてきた。賞与については、支払うことが確実に約束されている具体額のみ年収要件に含まれる。
賞与の支払いの最低額を含めて1075万円を超過していることが年収要件になるということである。
ここで期末賞与の話が出ており、それを必ず支払うのかという議論がされている。例えば年間では年収要件1075万円以上で報酬設計され、成果要求が高いために半年で自主退職するケースが考えられる。期末賞与の支給日在籍要件により一銭も支払われなくなり、年収要件を満たさなくなる。
この場合、半年間は高度プロフェッショナル制度に基づいて勤務していたにも関わらず、受取報酬の年間換算は1075万円を下回るのである。例えば、ボストン・コンサルティング・グループ合同会社のシニアアソシエイトは、ベース800万円を12分割した額が月俸となり、賞与は1075万円との差分(=275万円)が12月に支払われるが、途中退職はどのように扱っているのだろうか。
これについて取り扱いを東京労働局労働基準部監督課経由で厚生労働省に問い合わせたところ「契約時点では確実に支払われていると見込まれていたため問題ない」という旨の回答であった。国会討議をなぞるとそのような回答になるわけもないが、直接、厚生労働省労働基準局に追加で問い合わせる手段がなかった。参議院行政監視委員会に苦情を出したが、適切に処理されているのだろうか。
高度プロフェッショナル制度に関わる参議院厚生労働委員会附帯決議
厚生労働省の回答としては、高度プロフェッショナル制度に関わるコミュニケーションがとれてなかったため、今後通達等を通じて明らかにしていくという旨の回答が含まれていたが、問い合わせを実施した2022年以降何ら新しい通達は発出されていない。
また、労働政策研究・研修機構「高度プロフェッショナル制度の適用労働者アンケート調査」によって、年収1075万円以下の高プロ適用者の実在が明らかになり、労働政策審議会労働条件分科会の労働者代表委員からの指摘があったにも関わらず、勝手な憶測により全く責任放棄の回答で誤魔化していた。
高度プロフェッショナル制度に関わる参議院厚生労働委員会附帯決議は以下の内容である。
労政審にて省令等に委任されている一つ一つの事項について十分かつ丁寧な審議を行い、明確な規定を設定するとともに、対象事業主や労働者に対して十分な周知・啓発を行い、併せて監督指導する労働基準監督官等に対しても十分な教育・訓練を行うことを全く実施していない。
※労働基準局長
2015-2018 山越敬一(戒告)
2018-2020 坂口卓
2020-2022 吉永和生
2022- 鈴木英二郎
記事引用は有料部分購入を前提としたい。
以下余白