#5 仮想空間で生きる世界 リアルとバーチャルの融合で生まれる価値観
現実と仮想空間とを行き来しながらの生活が当たり前になると、今とは異なる新たな価値観が生まれてくることが予想できます。ファッションで考えると、現実で着るのはファストファッションなのに、アバターではハイブランド品を着用するという人が増えるかもしれません。また性別や労働の概念も変わってくるかもしれません。既に起こりつつある先進的な事例から、「仮想空間で生きる世界」が実現した時に私たちの価値観がどのように変化するか考えてみましょう。
仮想空間で働き生計を立てる
コロナ禍でのリモートワークの普及によって、出社に対する価値観がガラリと変わった人は多いと思います。これがさらにもう一段階進んだ先には、どんな働き方が可能になるでしょうか。
コンビニのローソンでは、2022年に店舗に設置されたモニター越しのアバターを通じて接客を行うアルバイトを募集*。セルフレジと組み合わせて、複数の店舗にて実用化に向けた実証実験を行っています。出社する必要がないのはリモートワークと一緒ですが、自分の顔は出さずにアバター越しに接客を行うことで給料を得るというのは画期的。
一方、株式会社オリィ研究所が運営する「分身ロボットカフェ DAWN」では、寝たきりなどで外出困難な方に分身ロボットをオンライン操作してもらうことで、彼らが働く場所を作り出しています。仮想空間でアバターを操作するのと同じように現実のロボットを操作し、オーダー取りや配膳を実施。このように現実世界とオンラインが繋がることで、病気や障がいを抱える人にも活躍の場を作り出すことを可能にしています。
性別や肉体を超えた恋愛関係
仮想空間の大きな特徴に、女性アバターの割合が圧倒的に多い点があります。「ソーシャルVR国勢調査2021」によると、VRユーザーの8割以上が現実での性別を男性と回答したのに対し、使用するアバターの性別の7割以上が女性でした** 。仮想空間であれば、現実の肉体的な性別に囚われずに、好きな恰好をして自分を表現できるという魅力があります。どちらかの性別に固執せずに、複数のアバターを使い分けることも可能です。
また、仮想空間のアバター同士で恋愛を楽しんだり、結婚する事例もあります。実際に「Fhttps://www.finalfantasyxiv.com/INAL FANTASY XIV 」や「あつまれ どうぶつの森」では、アバター同士が実際にゲーム内で結婚式を挙げ、現実でも入籍したという事例もあります***。この事例は男女の恋愛だったのですが、アバター同士の恋愛や結婚であれば、現実の相手の性別は打ち明けない限りはわからないので、現実の性別とは別で考える人も出てきそうです。もしかするとアバターの裏にいるのが人間ですらなく、AIとの恋愛を楽しむケースも出てくるかもしれません。
死後も存在し続けることができる世界
仮想空間のアバターは、歳を取ることがありません。現実の肉体が衰えても、仮想空間の中であれば若い頃の自分の姿のままでいることも可能。性別だけでなく、年齢による肉体の変化にも囚われずに、自由に自分を表現できることもアバターの大きな魅力でしょう。
さらには、仮想空間の中では人間は死を超越できる可能性も秘めています。バーチャルプラットホームサービスを展開するSomnium Spaceでは、ユーザーが現実で死亡した後も仮想空間の中で生き続けることができる「Live Forever機能」****を開発しています。自分の顔や声だけでなく、会話の内容から思考パターンまであらゆるデータをAIに記憶させることで、自分の死後もAIが再現するアバターとして仮想空間に存在し続けることができると言います。本人の意識はそこにはもうありませんが、他者にとってはアバターの向こう側にいるのが本人なのかAIなのか、見分けることは非常に難しくなるでしょう。
まとめ
Amazon Primeのドラマシリーズ「アップロード ~デジタルなあの世へようこそ」では、脳をスキャンすることで肉体としての死を克服し、仮想空間にて生き続ける人々の生活を描いています。今はまだあり得ない設定だと思うかもしれませんが、実際に似たようなサービスの開発が進んでいることも事実です。インターネットやAIの登場によって私たちの生活が大きく変化してきたように、メタバース構想はこれまでの常識が覆るような大きな変革をもたらすものになるでしょう。そしてリアルとバーチャルの融合によって生まれる新たな価値観が、今はまだ存在しない全く新しいファッションやカルチャーを生み出していくのかもしれません。
(文・高橋 功樹/未来予報株式会社)