リハビリと介護と優しさと厳しさ
先輩「田辺くん、そこで患者さんの靴を履かせない!」
私が理学療法士として働いてまだ半年のときに先輩から言われた言葉です。
その時私は、
(え、なんで?履きにくそうだから手伝ったのに・・・)
と心の中で思っていました。そして納得いかずにちょっと先輩に対してイラついてしまったのです。その時の私の考えとしては、
1.片麻痺患者さんで靴を履くのが大変そうであった
2.靴を履くのを待っていたら時間がかかるし、リハビリ時間が減る
3.靴を履く際に体をかがめるため転倒リスクがある
↓
これらのことにより、靴を履かせようと思って行動した。それを注意されて若い私は面白くありませんでした。
その後、病院の食堂で注意してきた先輩と食事をすることになったので、私は思い切って先輩に聞いてみたのです。
私「なぜ、靴を履かせたら行けなかったのですか?」
先輩「別に靴を履かせることは悪くない。しかし、田辺君はいきなり靴を履かせようとしたよね。それだと患者さんの自立心や動作の応用性などを鍛えることができない。大げさに言うと靴を履かせることでやってもらえるんだと依存させてしまうんだよ。」
私「そんな大げさな話なんですか?」
先輩「そもそも、病院という場所はあくまでも一時的なところであって、本来ならそれぞれの場所があるんだ。そこに帰るためにもできるだけ自分で行えるようになってもらわないといけないんだ。」
私(そりゃそうだよね。みんな早く帰りたい人がほとんどだよね)
先輩「田辺君、君は優しい。とても気が付く。本当にいいやつだと私は思う。」
え、急に褒められたけどどうしたんだろう‥‥。次に何を言われるんだろ…
先輩「だけど『理学療法士』としたときにそれは致命的な弱点にもなるんだ。優しい君は困っている人を見るとつい助けてしまう。それこそ息をするように。だから患者さんはこの人なら何でもしてくれる。と思ってしまう。」
先輩「そんな便利な人、おうちにはいないと思うよ。家族ならば特に。身内だとお互いに遠慮がないからね。だからできる限り私たちは患者さんの自立を助けていかないといけないと思うんだ」
先輩「患者さんを助けたければ介護士になればいい。介護士も立派な仕事だよ。人を助けるプロ集団だからね。本当にすごいと思う。」
私「私たち理学療法士も同じようなものではないんですか?」
先輩「人を助けるという意味では同じかもしれないが、我々の仕事は患者さん自身に自立した生活をできるようになってもらい、退院して社会に復帰してもらわないといけない。」
先輩「しかも病院は退院すればいいというもんじゃない。我々はよくても患者さんからしたらそこからが本番だよね。病院で生活できても家で生活できるとは限らない」
私「自分はそこまで深く考えていませんでした。」
先輩「まぁ、理学療法士は歩かせてなんぼ・・・って言われるけどね(笑)でも、車いすでもいろんなことはできるし、無理に歩かせる必要もない。こんなこといったらおこられるけどね。」
私はこの先輩としっかり話す前はかなり苦手意識を持っていました。自分よりもかなり年上(50代?)だったため、また言葉も少しきつめだったり、いろいろ質問もされていましたので(笑)
しかし、実際に話してみると患者さんのことを常に考えて行動されているすごい方だと感動しました。やはり、実際にお話ししてみないとその方の考え方はわからないですよね。
これらの教えが私に残っていたのか、10年後に訪問看護リハビリの仕事に就くことになりました。
病院から退院され、病院と自宅の違いに戸惑っている方々のクッション材として医療、福祉両分野から対応しています。また、訪問看護なので看護師からのアドバイスも受けることができます。
このような恵まれた環境で訪問看護リハビリの仕事を頑張っています。