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MotoGPのテクニックについて考察する【足出し、リーンイン】

二輪ロードレースの世界選手権、かつてはWGP(ワールドグランプリ)と呼ばれており最高峰クラスのGP500は500ccの2ストロークエンジンのマシンで争われていました。
今ではそれがMotoGPとなってトップカテゴリは1000ccの4ストロークエンジンのマシンになっています。

世界最高レベルのライダーが集い、しのぎを削るグランプリの世界では数多のテクニックが生み出されてきました。

今回はその中でも、現代のMotoGPで見られる2つのテクニックについて考察したいと思います。

WGP時代から現在までの流れ

僕がレース活動をしていた1990年代のライディングスタイルは、1978年からWGP500ccに参戦し3連覇を果たしたケニー・ロバーツ選手が確立したと言われるハングオフスタイルでした。

2002年に世界選手権の最高峰クラスがMotoGPクラスに変わるまでは、概ねこのスタイルが主流だったと言えると思います。

しかし2009年頃に、今のMotoGPクラスでも垣間見ることができる特徴的なテクニックが生まれました。
“ブレーキング時の足出し”です。

これは、ブレーキング時にコーナーの曲がる側の方の足を下に出すというテクニックです。

このテクニックを編み出したのは2001年にWGPの500ccクラスでチャンピオンを獲得し、その後MotoGPクラスでも6度のチャンピオンに輝いたヴァレンティーノ・ロッシ選手です。

そしてさらにもう一つ衝撃的なテクニックが誕生します。
現在のMotoGPクラスではすでにオーソドックスなスタイルとなった“リーンインで肘を擦る”というスタイルです。

このテクニックの産みの親は、2013年にMotoGPクラスに登場して以来6度チャンピオン獲得を果たしているマルク・マルケス選手です。

それでは、一つ一つのテクニックについて考察していきたいと思います。

ハングオフスタイル

2ストローク500ccのマシンで争われていた当時は、リアタイヤのグリップ力が完全にエンジンのパワーに負けていました。

そのため、それまでのリーンウィズスタイルではバンク角を深めた状態でスロットルを大きく開けることはできず、コーナリングスピードを上げることができませんでした。

その点、ハングオフスタイルは、体が起きたリーンアウト的なフォームであるためリアタイヤのスライドをコントロールしやすく、かつマシンのイン側に体を落とすことが出来るのでリーンインのように限界バンク角からさらに内向力を引き出すことができるという一石二鳥のフォームでした。

ブレーキング時の足出し

ブレーキング時に内側の足を出すのは、重心を内側下方にズラすことが目的だと思います。

スーパーからの帰りに、片手で買い物袋を持ったらそちらへ傾くのと同じ原理です。

ブレーキング中からすでに、ほんのわずかでもコーナリングする方向に傾いていると、コーナーに入って行く時に驚くほどスムーズにマシンを寝かせていくことができます。

MotoGPではストレートエンドのフルブレーキングでよくこの光景を見る事ができますが、その際、強烈な減速Gによって後輪が浮いているのを目にします。その状態で足を出した事により車体が傾くと、遠心力の働きでリアタイヤは外側に振り出されます。

それがまた、コーナリングを始めるのには都合がいいのではないでしょうか。

出すライダーと出さないライダー、同じライダーでも出す時と出さない時など様々な違いがありますので、注目してみるのも面白いでしょう。

街中を走るのに必要なテクニックではありませんが、真似してやってみれば何かしらの発見はあると思います。

リーンインで肘を擦る

余談ですが、WGP500cc時代にもジャン・フィリップ・ルジアという選手が肘を擦って走っており“肘擦りルジア”と呼ばれたりしていました。
当時は肘を擦る選手など他におらず特異な存在でしたが、ルジア選手のフォームはあくまでハングオフスタイルで、MotoGPの肘擦りとは若干異なります。

ハングオフが出来ないようになり、リーンインで肘まで擦るようになった背景は主に3つあると思います。

タイヤグリップの向上、トラクションコントロールの導入、スイングアームの延長の3点です。

まずタイヤについては下の写真を見てください。

上の写真はSUZUKIの1990年型RGV-Γ(500cc)、そして下の写真は同じくSUZUKIの2022年型GSX-RR(1000cc)のリアタイヤなのですが、2つを見比べてみるとGSX-RRのリアタイヤはセンター付近が高くなっていて、トレッド面がサイドまで大きく回り込んでいます。

MotoGPのマシンが65°を超えるようなバンク角を発生させる事ができるのは、このタイヤの進化のおかげだと言っても過言ではないでしょう。

さらに電子制御によるトラクションコントロールの働きも相まって、ライダーは思い切ってバンク角を深め、なおかつスロットルを開けていく事ができるようになったのではないかと推察します。

そうしてバンク角を深めていった結果、バイクと地面との間にヒザを出す隙間が無くなっていき(ケニー・ロバーツ選手の時代はヒザ頭を地面にこするような角度でしたが、それも時代を追うにつれて段々ヒザの側面にバンクセンサーが移動し、ブーツのつま先にもセンサーが付くようになったりとバンク角が深まっていく進歩の歴史がありました)、ヒザはできるだけ畳み、それでもバンク角を深めたければもう上体をイン側に入れるしかないという事でリーンインに辿り着いたのではないでしょうか。

最後に、スイングアームが延長された事の影響については以下の記事に詳しく書いたので参照していただきたいのですが、リーンインのフォームを取るとリアへの荷重が不足する問題が発生します。

というのも、リアタイヤに荷重を載せる事はトラクションを得るためにとても重要なことなのですが、1960年代のマシンの造りでは後ろ寄りに座るしか手が無く、ケニー・ロバーツ選手以降はリアに積極的に荷重するために体を立てていた(ケニー・ロバーツ選手は上体を起こすために『ガソリンタンクの前後長を短くしてくれ』とYAMAHAにリクエストしたとか)のですが、スイングアームピボットが前進しスイングアームが長くなったことにより、前寄りに座ってイン側に上体を伏せた姿勢でも後輪の接地点に向けて荷重を載せていけることができるようになったのではないでしょうか。(モトクロッサー的なバランス)

なお、リーンインの使い方にもいくつかのパターンがあるので少し触れておきます。
例えば、大きなRでグッと曲がりこんだようなコーナーでは、アプローチではリーンウィズっぽい体勢でフルバンクさせて、そこからさらにクリッピングポイントに向かってリーンインでバンク角を増していくような使い方をしています。

ヘアピンのような小さなコーナーでは体をリーンインで内に入れたままバイクだけを起こして立ち上がっていったり、中速でクリアする緩いコーナーではリーンインを使わずにサッとクリアしたりもしています。

こう見ると基本はリーンウィズで、状況に応じてリーンインを使い分けているようにも感じてきます。

“肘を擦る”については、、

マルケス選手は肘を駆使してフロントタイヤのスリップダウンを防いでいる、という話を聞きますが、それ以外の選手は特に肘を擦ることに目的はないのではないかと想像します。

僕らがサーキットを走っていた頃、ヒザを擦る事は別に意識をしてやる事ではなく、走っていれば自然と擦るものだったように、MotoGPの選手達は『そりゃ普通に肘は擦るもんだよ』と思っているのではないかと思うのですがどうでしょうか。

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奥本雅史@二輪ライディングアドバイザー
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