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出版当時読んで感想を書いた

2008年11月
ピアニストになりたい! 19世紀 もうひとつの音楽史
岡田 暁生

こういうイロモノ本好きです。「モーツァルトは子守唄を歌わない」以降ツェルニーくんのファンです。ツェルニーくんは先生とは別な方法で名を残すといってましたっけ。練習曲が楽曲から指ドリルに変わる、という興味深い考察。シューマン夫妻が主人公の「トロイメライ」という旧東独映画でシューマンが怪しい「大リーグボール養成ギプス」で練習するシーンが印象に残っています。岡田先生は難しい話題をエンタ風に仕立ててくださって素晴らしいです。

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ピアニストガイド
吉澤 ヴィルヘルム

たとえばポケモン図鑑みたいな面白さでした。
通向きのガイドとしてでなく、通して面白く読む「読み物」として構成されているかしら?まあ労作なのです。評価が主観的ですが、どのみちこちらも主観的に聞くわけですし、挑発的な評価はむしろ好印象です。自分の好みを本にして出版してもらえるというのは幸運です。キャッチコピーは、確かに笑えます。ピアノの世界はそれが通じる多彩なキャラクターがそろっているということでしょう。家族、結婚相手についても興味本位でよい調査と。

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2008年12月
オーケストラの経営学
大木 裕子

興味深く読みました。「音」と「味」は共通するものが多く、参考になります。食べ物を扱う経営に関するものでよく抜けている「プロフェッショナル」というものの説明にふむふむでした。「共創」という言葉にも説得力がありました。「競争」であり、「協奏」であり---やはり「音」も「味」も同様に「共鳴」が大切なようです。オーケストラが赤字体質から脱せない、というところは飲食店も似たことがいえます。

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ロマン派の交響曲~『未完成』から『悲愴』まで (講談社現代新書)
玉木 正之, 金 聖響

気軽に読めます。そして、所蔵しているCDをだしてきて読みながら聞けます。この素晴らしい名前の指揮者の語りは、関西弁がすがすがしく、好感、正直さもよいです。確かに変な評論家の本よりいいかも。評論家を自認するなら、本当に評論してほしいものです。淀川長治は自分が、評判をたてる役目と演じていたと思います。でもそのおかけで加藤幹朗先生のような方も現れたかしら、と。
中野振一郎の語りも素晴らしいので、彼を使って「バロック以前編」も編集してほしいもの。スズキじゃどこか聴衆が低く見られていると劣等感を感じそうですし。オペラ分野の話はつまらなそうだし。
前作ベートーベンの9曲に対して、6人の作曲家は英断だと思います。講談社の編集が素晴らしいのかしら。

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音楽の聴き方―聴く型と趣味を語る言葉 (中公新書)
岡田 暁生

吉田秀和賞おめでとうございます。よい意味でアーレントのポリスみたいなクラシックオタクソサエティができたら、岡田センセがそこのフューラーですよ。
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岡田先生絶好調。かゆいところに手が届くばかりです。途中で栞をはさむのが困難な面白さ。陰陽師の呪文のような本です。
普段なんとなく感じていても、論にまとめるのが難しそうです。個人的な経験をあげなければならないところもたくさんあり、なかなか勇気をもってお書きになったなあ、と。岡田先生の3部作は、中公新書らしいシリーズとも思います。

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2010年05月
ピアニストが見たピアニスト―名演奏家の秘密とは (中公文庫)
青柳 いづみこ

ついに文庫化。青柳センセはサイトの画面で見ていると、読みやすいのに、なぜか活字になると読みづらさ、テンポ感の違いを強く感じます。そつがなさすぎて、多少破綻していても、過激でもよいので何か心に残る一文がほしいかしら。黒沼さんのようなメッセージ性はなく、中村さんのようなハッタリの構成力も弱い、たしかにずば抜けた「二束の草鞋」なのですが、バランス感覚がよすぎて、伝えたいポイントがぼやけているように感じます。もっと素人っぽく偏向していてよいのでは?と。物書きとしては、リヒテルよりギレリスに近く、アルゲリッチよりポリーニよりという感じ。それぞれ青柳センセが採用したピアニストの方が、どこか逸脱していて、そこが面白いところ。物書きも同様ではないでしょうか。あまりにプロはだしの文章力故に「書けてしまう」という感じで、全体の起承転結が甘いと思います。「翼の生えた」にしても「音楽つながり」にしてもそう。
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ありました。感動の一文。恩師の章で、自分のデビューリサイタルプログラムに、恩師が贈ってくれた言葉が素晴らしい!「彼女はヨーロッパのいろいろな都市で美術展が開かれるたびに、その展覧会を見に出かける。ヨーロッパ各地でオペラがあれば、遠くまで汽車を乗り継いで出かけていく。そういう芸術全般への好奇心が強い」日本では理解されないから変更を頼む著者に「真心を持って書いたものだから、変えられない」と。

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