W.F.バッハのチェンバロ協奏曲 2015年11月
このカテゴリーの醍醐味のひとつは、きっと「ひとつの独奏楽器のための(管)弦楽伴奏つき協奏曲」というものです。グラウンのギャラントでブリリアントなグランドスタイルのコンチェルトが始まりでしたので。
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チェンバロを独奏楽器とする協奏曲という分野については、ほぼ父バッハに始まり、ドイツ圏でよく作曲され、モーツァルトあたりを最後にその役回りをピアノと交代します。リコーダー、リュート、ガンバと並んで20世紀の古楽器復興までほぼ完全に登場機会はなくなります。20世紀に入ってからはほぼランドフスカの活動が認められ、分野そのものが復興します。オルガンがロマン派時代もそれなりに生き延びたのとは違います。18、19世紀とピアノ協奏曲は隆盛を極めていきます。
チェンバロ協奏曲は不思議な分野で、バロック作品は音量のバランスを考えるとほぼピアノ五重奏と変わらない室内楽的編成です。したがって小規模でも各パート複数人だとチェンバロの音は小さくて聴こえないのが「普通」。ところが思ったよりオペラアリアのようなプリマ役が与えられていることが多い。ライブで聴いてもバランスは微妙です。最初から目立つバイオリン協奏曲とはずいぶん印象が違います。
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フリーデマン(1710-1784)は不明なところがたくさんあります。
youtubeでチェンバロ協奏曲を聴く機会があり、検索してもリストらしきはヒットしません。
CDや雑誌の切り抜きから類推して下記の様子。
ソロ協奏曲が7曲。2台用が1曲。計8曲聴けば完聴です。父と同じくらいでしょうか。弟CPEの70曲近くの方が異常に多いのでしょう。CPEファンには悪いのですが、チェンバロ協奏曲に関しては、WFの方が飽きずに聴けます。
第1番 ニ長調 F.41
第2番 変ホ長調 F.42 モデラート1楽章のみ(断章)
第3番 ホ短調 F.43
第4番 ヘ長調 F.44
第5番 イ短調 F.45
番号なし ト短調 F番なし
番号なし へ短調 (もとC.P.E作とされた)
キルンベルガー作 ハ短調 (もとW.F作とされた)
2台のチェンバロのための協奏曲 変ホ長調 F.46
レコード芸術誌の谷戸基岩氏の短評。ロンドン・バロックのW.Fの協奏曲集CDについて。ご自身若い苦渋の時代、ヴェーロン・ラクロワのW.F作のハ短調協奏曲(1963年録音)をよく聴いた。「悲劇の生涯を暗示するかのような楽想」に作曲家に対する思いが募った。後々それが父バッハの弟子キルンベルガー作と知る。バッハの長男W.Fは問題児で、他人の作品を自作と称したり反対をしたり。同時期弟C.P.E作とされていたヘ短調協奏曲が兄W.F作と判明したり。
谷戸氏いわく、W.Fの音楽は「本当の心の痛みを知る者にのみ書きえる音楽」とのこと。
父とその世代とも、弟の世代とも違う、独特な雰囲気を醸す曲もあり、父の教育の賜物であるのに、もったいない残念な才能の使い方という評価が専らです。
オドブール盤(41+43+4+45)1975年
ロンドンバロック盤(41+44+45)1995年
パンソン盤(42+43+44+45+ヘ短調)1996年
アストロニオ盤(41+43+44+45+46+ヘ短調)
ヴィーナント盤(41+ト短調)2010年
2010年が生誕300年だったのですが、C.P.Eほどには騒がれずかしら。CDとしては徐々に「残らない」リストに入りそうですが、数少ない気に入った人たちがネットを含め様々な形式で伝えようとする、そんな人物のようです。偉大な父と偉大な一族の中の「負け組」共感しきり。