コーヒー店訪問 謎の「珈琲会」会記、降誕節の会
不思議なご縁。
サルデスカ、白日、福村龍太氏と辿ったご縁。
福村個展にサルデスカさんが料理を提供しに福岡まで行き、そこでコーヒーの会を開いていたのが珈琲占野さん。
何者か興味を持ちました。
正直、こうした提供の仕方には抵抗感がありました。
ところが、この4月に参加したお茶席の場、浄智寺で珈琲席を設けるというインスタの告知。
回避して評判はあたらないので、まずは一体どんなことをしているのか?どのように利益を作っているか?観察してみようと。
サルデスカさんに1万円は説得力感じます。白日で1万円も同様。ならば、占野さんに1万円も試す価値がありそうです。
10年前、安売りしないでとうったえ続け、あるとき偉い人相手にスペシャルティなら1杯5000円からでは、などと風呂敷を広げたりしました。一保堂嘉木で濃茶セット2500円。ヒガシヤ銀座の茶果3000円と賞味して、コーヒー1杯5000円も現実味を。
どうすれば5000円でお客様を説得できるか。
自分なりに考えました。
その足跡のひとつ。
こんなことは誰もやりませんな、当然。
でも、それを実行しようとする若者がいたのです。それなら会いに行ってみよう。
まず予約。インスタで予約しました。
金曜日の3回転ある席の2順目。
そして、それはアドベントにちなんで、参加費用形式でなく、プレゼント交換形式にしたいという、コンセプト。
インスタを拝見しながら、何を持っていけばよいのやら。世代も考え方も違います。相手が考える価値は何か、問うつもりが反対に問われて、悩まされる結果に。
正式な参加費用は6000円なり。それ相当の価値を物々交換しようという趣向。悪くはないですが、持ってはせ参じるモノによって、こちらの価値やレベルが値踏みされます。
次のような候補を検討。何しろ「消えもの」の中で普段使う甘いものは「不可」。食器類も「不可」。
候補、ベートーベン。「美術の物語」。「香り墨」。「地球儀」。綿花ドライフラワー。わばら。
久しぶりに都会を彷徨いました。
ドライフラワーに傾いて、探しました。ドライを探していたのに、ふとデパートの屋上で盆栽のクリスマスツリーを見つけました。
店長さんに相談すると、田舎に引っ越されるのであれば、東京風な鉢はいかがか。
それで紅白の梅の鉢に。クリスマスからは遠ざかりましたが、年明け頃に開花するらしい。
紅白ならサンタクロースの配色ですし、年末年始もそのまま楽しめそう。
何より鎌倉にはせ参じるので、鉢の木は悪くない。
手でぶるさげて行くのでクッションと二重に重ねた手提げ袋に。思いのほか重くなく助かりました。
花芽だけついた梅の枝ぶりは直線的で好いと感じました。別な候補桜は自分の老いた五指のようであまり好きではありません。
盆栽なんて全く無知の世界でした。その盆栽店の本店地名が「盆栽町」という古い老舗。盆栽教室を開催すると7割は若い女性らしい。悩んだら電話くれるよう伝えてとショップカードをつけてくれました。
コーヒーを飲みに、梅の鉢を抱えて電車に乗り、なんてちょっと我ながら間抜けて感じられましたが、後の祭り。
いざ鎌倉。浄智寺を過ぎてくだんの宝庵を尋ねました。
会場は、茶室の隣のシンプルな形の平屋作り、茶室との間の通路には関守石が置かれ、粗末な縁側の脇を通るように設え。
はじめは迷って、その先の陶器窯のある施設まで行ってしまいました。そこは切通しの岩の上に昇って行く先。併設売店で珈琲の席を尋ねると、ここではない、戻り下ってとのこと。おやおや。ではやはり以前訪れた茶室かと降りていくと、平屋の前で、縁側の石や落ち葉となにかの果実を撮影しているカメラマン氏がいました。カメラマン氏は防犯用だかの監視カメラレンズをオリンパスのデジカメに装着して粗末な縁側を切り取っていました。鎌倉の秋冬の季節はフォトジェニックなのがよおく知れました。その縁側のある平屋から、若い女性が出てきたので、コーヒーの席を尋ねると、お時間まで今しばらく散策してほしいと。あとでマダムとわかりました。よく見れば縁側の果実の隣、石の重しのカードに「珈琲占野」とあるではないか。自分の早合点を恥ずかしく。
そのうちおそらく同じ目的のご婦人とあい、同じ説明をわたしがすることに。時刻とプレゼントらしき手荷物が共通でした。のちのちコーヒーをいただきながら大学で歴史の勉強をしていると知りました。
時間が来て、縁側のガラス戸が開き、用意ができたので若い亭主ご夫婦の招きに応じて縁側で靴を脱ぎました。わたしの体重で縁側の板が割れるのではないかと心配しつつ、中へ。
亭主の席には、アルコールランプの火にかかった薬缶で風炉の代わり。部屋の中央に黒い溶岩板のような石板が鎮座、それを中心に客席は4名分車座に。ひとりずつ畳の座布団と前にお膳代わりのサービスプレート。あとで道具のほとんどが、金属製でその「金物尽くし」が亭主の趣味とわかりました。中央の石板と思ったものも。
「金物尽くし」ねえ、ふとウィキ検索、ヘビーメタルはその単語を「依存性の強い薬物のメタファー」ととらえた語源なんて、それでなんとなく納得。白日福村ラインのヒップホップの次はヘビメタときましたか。
茶筒、茶さじ、ロングスプーン、片口、楊枝など真鍮製やら七宝やら。
七宝はなかなか高価で、価格を知っているので、お客様1名あたりに数万円費やしていらっしゃる。極めつけは参加のおひとりが薬缶の製作家でした。亭主は、金属器の経年変化がお気に入りと自己紹介されました。ひとつ間違えれはお飯事と評されるのを恐れず立派でした。
それでも、ガラスのデミタスカップは重さはあるが角がとれた柔い表情のもの。福村ヘビメタカップはちょっと陶器に見えません。
亭主28歳とのこと。富士珈機で浅野先生について学んだそうです。来年は黒姫高原に引っ越して、いよいよ自分の店をもつ予定。寒いところです。心配すると若い人たちが喜ぶサウナ施設があると話題。今は昔、黒姫も変わっているのでしょう。ふと2月の寒い高田にも行ってみたくなりました。周囲を寒くしない気遣いの人柄も立派だと。
本日のメニュー。
カスカラと焙じ茶のブレンドを三煎。中国茶風な小ぶりなポット、ガラスのデミタスで。一煎目カスカラの甘酸っぱい味わいが、全体のスタートのよいアプローチに。煎じ追うごとに焙じ茶の少し燻されたアフターと交代しながら変化を楽しむ。
菓子担当のマダムがごあいさつ。様々な場所への手土産として世話になったという「クルミッ子」に表敬した菓子。柔らかいめのクッキーでクルミあめサンド。
濃茶にあたるコーヒーはインディアの深煎りをネルドリップで。アンティークのミルで二度挽き。くちばしの長い銚子をサーバーに受けて福村ヘビメタデミタスに振り分け。同席のご婦人のひとりが「甘い」とうなりました。たしかにカラメルの風味が口の中で横溢していました。程よく温めでネル特有なシルキータッチのテクスチャーも効果的。亭主のインパクトのある深煎りの説明も奏功。
コーヒーも大切にしつつ、同等に器や設え、菓子、もてなしの時と場を重要視しています、と。
お客様より問われて、畏敬3軒、博多の美美、京都のオオヤミノル、東京の蕪木を挙げました。プラスワンで大坊さんを。
考えてみれば、それらの中で1席6000円の店はありませんから、こちらの亭主は事実上それらの店をすでに凌駕しています。
ふたつ目のコーヒーはケニアの深煎り。白っぽいイチジク様の七宝の片口で福村デミタス2杯分。香り味わいを煎り切らずインディアと違った風合いに。残った脆い酸みと立ちあがり端の苦みが弾けそうな膨らみで口の中に。好みが分かれそうな風味は、弱い焼いた果実の風味と微かにこもったスモーキーさ危うし。
ふたつ目の菓子は蒸しパン。おそらく柚子風味のバタークリーム添え。蒸したての湯気と柚子醍醐の風味は、飲むわたしにとってケニアを救う調和をもたらしました。
この提供方法を実行したこの亭主ご夫妻にわたしは拍手を送ります。
価格は妥当か無謀かと問われれば、未だ途上と感じます。提供されたすべてに説得力が十分かと問われれば、残念ながらと思います。しかし、亭主ご夫妻が何をしようとしているか、よく伝わりました。安穏の道でなく、棘のある道と思います。
どうか、精神のしなやかさをはぐくみ、困難に際して人に頼る受援力をはぐくみ、よい独立自営をすすめてほしいと願います。
1名6000円参加費。
1席4名限定3回転。
2日間売上14万4000円。
このうち半分をプレゼント交換形式にするお人よし。
生活にゆとりのあることを祈ります。
参加者に手土産としてクリスマスブレンド豆100グラムをもたせました。
これは少し無理をした風味でした。