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笑うバロック(684) 女流の時代、その3チャレンジド・ソフィーのディスティニー

ひとつ間違えると、聴き手の素直な感想が、すべて排除されてしまいそうです。
ジャケ・ド・ラ・ゲール (最近でも「エリザベト・ジャケ・ド・ラ・ゲール(作曲家ダカンの叔母)」のような紹介。道綱の母みたい) のソナタは流麗繊細で憂いを帯びたいかにも女流らしい----云々かんぬん。よく一緒に演奏しているテオやオーギュらの楽器に擦り傷がつきそうな、なんというかフローリッドな演奏と比べると、というくらいの意味です。

言葉で伝えるというのは、どのみち先入観にあふれたものになります。対話することで、ふたり以上の意見になり、個人の感想からすこし距離をおけるのでしょう。

女性が主人公のハードボイルドはたくさんありますが、概ね男性の描くものが多く、なにやら誰かに好まれることを求めています。先日アニメ版「ファブル」を鑑賞しました。こうした女性キャラクターを男性読者は望ましい荒唐無稽と見ているのでしょうか。また女性読者はいかにも男性が妄想しそうなキャラクターと感じているのでしょうか。

南勝久氏のイメージ

わたしが、はじめて驚かされた作品は、柴田よしき「RIKO女神の永遠」です。村野ミロ、コーデリア・グレイ、ビック・ウォシャウスキー、ケイ・スカーペッタではありませんでした。
横溝正史賞だったので選出され、かつ生き残ったように感じます。
削除できない爪痕のような横溝ミステリーの、わたしの感想では正統な末裔。女刑事主人公の3部作。その後女刑事、女探偵を流行らせたように思うのですが、ほかの主人公たちとは決定的な違いがあって、どうも、多くの人に触れられず、埋もれていきそうな気配を感じます。
読み手を選ばず不愉快にさせる、人の傷つけ方だと思います。誰かに好まれようという意識がないと思えるのです。

1995年刊

ソフィ・ド・バルドネーシュのバイオリンはコーデリア・グレイくらいかもしれません。
CD宣伝資料は、政争史のような宣伝文句です。マーケティングの結果、「影に追いやられ、後世から忘れられていた」「昔日のフランスの真相に迫る」ことになったようにも。
ソフィ(ヴァイオリン)リュシル(バス・ド・ヴィオール)ジュスタン(クラヴサン)ルイーズ(ヴァイオリン)マルタ(ヴィオラ)ハンナ(チェロ)たちの演奏。

【男性優位の音楽史に覆い隠されていた才能が、次々とその真価をあらわにする】
作曲は圧倒的に男性の仕事だったかのように印象づけられてきた17~18世紀のフランスで、実は驚くほど多くの才能豊かな女性作曲家が活躍をみせていたことを瑞々しい演奏で立証するアルバムの登場です。フランス新世代の名チェンバロ奏者ジュスタン・テイラーと共に、古楽器楽団ル・コンソートで創設メンバーの一人として共演してきたバロック・ヴァイオリン奏者ソフィ・ド・バルドネーシュを中心に、独奏から弦楽合奏まで変化に富んだ楽器の組み合わせを通じ、太陽王ルイ14世の頃からロココ文化華やぐルイ15世の時代にかけての名品群を絶妙なプログラムで紹介。王室の要人リュリ、マレ、クープラン、ド・ラランドら男性たちの影に追いやられ、後世から忘れられていた女性たちの作曲手腕がどれほど明敏だったか、その息吹の粋をよく捉えた演奏解釈でじっくり伝えてくれます。ソロ活動も目覚ましいヴィオラ・ダ・ガンバ奏者リュシル・ブーランジェの味わい深く流麗な低音も美しく、他の弦楽器奏者を交えてのオペラや声楽曲からの器楽部分抜粋もドラマティック。ライナーノートにはバルドネーシュ自身のコメントに加えて的確な背景解説を収録。比較的有名なジャケ・ド・ラ・ゲルひとりで終わらない、女性の才覚に支えられていた昔日のフランスの真相に迫る好企画です。

曲目
1アンヌ=マドレーヌ・ゲドン・ド・プレル(1687-歿年不詳〔18世紀〕):新しい趣味によるアリエット(1731)
2エリザベート=ルイーズ・パパヴォワーヌ(1735頃-1755以降):嵐の場面(カンタティユ「二輪馬車」より)
3ローラン嬢(生歿年不詳、1690年頃活躍):第1エール(1690)
4-10. エリザベート・ジャケ・ド・ラ・ゲル(1665-1729):ヴァイオリンとクラヴサンのためのソナタ ニ短調(1707)
11アンヌまたはマルグリット・ボケ(生年不詳-1660以降):プレリュード ニ長調
12フランソワ=シャルロット・ド・セヌテル、通称メヌトゥー嬢(1679-1745):ガヴォット(2声の真面目な歌)
13-18. ジャケ・ド・ラ・ゲル:ソナタ イ短調(1712)
19ラ・ショセ夫人(生歿年不詳、1712年頃活躍):ムニュエ(メヌエット)
20ジャケ・ド・ラ・ゲル:プレリュード イ短調(1707)
21-25. ジャケ・ド・ラ・ゲル:ヴァイオリンとクラヴサンのためのソナタ イ短調(1707)
26デュヴァル嬢(1718頃-1775頃):ロンド(歌劇《精霊たち、または恋の諸相》より)
27マリー=クリスティーヌ・フュメロン(1720-1756):ロンド(牧歌劇《恋の神と結婚の女神の勝利》より)
28ローラン嬢:序曲(1690)
29ローラン嬢:ジグ(1690)
30タロン夫人(生歿年不詳、1695頃活躍):ムニュエ(1695)
31デュヴァル嬢:サラバンド(歌劇《精霊たち、または恋の諸相》より)
32デュヴァル嬢:パサカーユ(歌劇《精霊たち、または恋の諸相》より)

録音2024年2月 パリ


αレーベル、こんなラインナップと並んでいて、魅力的です。ローカルな中華思想が好ましく思えます。ジャケ・ド・ラ・ゲールも路線にのっていると思います。

綴っていて、ふと思い出したザビーネ・マイヤー事件、42年前のこと。

ザビーネ・マイヤー事件  1982年カラヤンとベルリン・フィル団員との間で生じた事件。 クラリネット奏者であるドイツ人のザビーネ・マイヤー(当時23歳/1959年生まれ)をカラヤンがベルリンフィルに強硬に入団させようとしたが、入団反対で決議した団員投票に従うべきだとする団員側とで確執が生じました。



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