(2011年4月) 実演の記録 当時の典礼にならって、レクツィオの部分をクープランの作品で

ルソンの録音の中には、下記のように「典礼にならって」というものもあります。
「レクツィオ+レスポンソリウム」の組み合わせでは、ヤコブスたちのシャルパンティエのルソンの録音の頃から採用されています。
クープランでは、レーヌ、ジェステ、マンドラン盤が「ならって」いますが、全く同じ曲で構成されたものはありません。

(+)「アンティフォナ」はキリスト教聖歌を歌う隊形の一つで、合唱を2つに分けて交互に歌う歌い方の聖歌を指し、カトリック教会と正教会で現在も一般的に行なわれています。
(++)「レスポンソリウム」は、キリスト教聖歌の曲種の一つ。独唱者と合唱の交互で歌う歌い方の聖歌を指し、カトリック教会における歴史的言い回しです。和訳では一般に「応唱」。
「アンティフォナ」同様歌詞は聖書の詩篇から多く採られ、先唱者が聖書の一節を歌い、その後に続く節を合唱が答えるという形は、レクティオ(朗読)の最後に行われる朗読者による先唱句と会衆による応答句の終了形が聖歌に拡大したものとも考えられています。したがって、レスポンソリウムは必ずレクティオに続いて歌われます。ミサ曲のグラドゥアーレ(昇階唱)やアレルヤ唱などもこの形式。

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上野学園創立90周年記念演奏会
17、18世紀の歌唱芸術(vol.15)
(+++)聖水曜日のためのルソン・ド・テネブル(フランソワ・クープラン作曲)
1994年4月27日水曜日 上野学園エオリアンホール

[演奏プログラム]
(+)アンティフォナAntienne 神よ私を逃れさせて下さいDeus meus,eripe me
詩編Psaume 主よ、私はあなたをIn te,Domine
(+++)1声による第1のルソンPremiere lecon a une voix
(++)レスポンソリウム1 Premier Repons 私は子羊のようにEgo quasi agnus mansuetus
(+++)1声による第2のルソンSeconde lecon a une voix
(++)レスポンソリウム2 Deuxieme Repons あなたたちのひとりがUnus ex vobis
(+++)2声による第3のルソンTroisieme lecon a deux voix
(++)レスポンソリウム3 Troisieme Repons 今夜、あなたがたはOmnes vos scandalum
ヴェルセ Verset キリストは私たちのために Christus factus est pro nobis

[解説]
ルソン・ド・テネブルはその名が示すとおり、暗闇の朝課(復活祭に先立つ聖木・金・土曜日の聖務日課の朝課のこと)のレクツィオ(朗読)のための準典礼音楽である。(----中略----)手元の「リベル・ウスアーリス」(1956年)で、聖水(木)曜日の朝課の構成を見ると、次のようになる。

第1の夜課
アンティフォナ1
詩編68(69)
アンティフォナ2
詩編69(70)
<>アンティフォナ3
<>詩編70(71)
<>レクツィオ1(「哀歌」1,1-5)
<>レスポンソリウム1
<>レクツィオ2(「哀歌」1,6-9)
<>レスポンソリウム2
<>レクツィオ3(「哀歌」1,10-14)
<>レスポンソリウム3
第2の夜課
アンティフォナ1
詩編71(72)
アンティフォナ2
詩編72(73)
アンティフォナ3
詩編73(74)
レクツィオ4(詩編54(55))
レスポンソリウム4
レクツィオ5
レスポンソリウム5
レクツィオ6
レスポンソリウム6

第3の夜課
アンティフォナ1
詩編74(75)
アンティフォナ2
詩編75(76)
アンティフォナ3
詩編76(77)
ヴェルスス
コリントの信徒への手紙1より
レクツィオ7
レスポンソリウム7
レクツィオ8
レスポンソリウム8
レクツィオ9
レスポンソリウム9

賛課
アンティフォナ1
詩編50(51) ミゼレーレ Miserere mei
アンティフォナ2
詩編89(90)
アンティフォナ3
アンティフォナ4
モーゼの賛歌(出エジプト記15-1-19)
アンティフォナ5
詩編146(147) ラウダーテ・ドミヌムLaudate Dominum
アンティフォナ1g
ザカリアの賛歌(ルカによる福音書1,68-79)
アンティフォナ1g
<>ヴェルセ Christus factus est pro nobis obediens usque ad mortem.

本日はこのうち <>第1の夜課のアンティフォナ3からレスポンソリウム3まで<> を、当時の典礼にならって、レクツィオの部分をクープランの作品で、その他はグレゴリオ聖歌で演奏する。ただし、グレゴリオ聖歌といっても、クープランの時代のパリ式聖務日課書にあるものを用いる。これは、旋律が今日の「リベル・ウスアーリス」にあるものとは多少とも異なっており、さらに詩編の歌詞は短縮され、レスポンソリウムは3つとも歌詞が完全に異なっている。また、詩編とレスポンソリウムは、これも当時風に、M-Aシャルパンティエを参考にした、17世紀フランス式のフォーブルドンを交えて演奏される。そして最後は、朝課全体の締めくくりである”Christus factus est”によって閉じられる。(内野充子・記)

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