コレクション2期-6 高橋麻帆書店に教わる
図書館向きな本です。1993年刊ながらあまり借り手はいなかったのか、閉架に。
原著は1847年パリ刊。「レ・フルール・アニメ」(Les fleurs animees)。
「コーヒーVS紅茶」のエピソードを読むと、効用や歴史に関して、きちんと把握している印象を受けます。
ある日、コーヒーの花は彼女の姉妹であるお茶の花に会いに、中国を訪れることにしました。お茶の花は彼女を篤くもてなしました。でも、その親切には彼女に対する優越感が少しばかり混じっていたのです。
実際、お茶の花にしてみればコーヒーの花など、おつき合いをしてあげることにした野蛮人にすぎません。なんといっても、高い文明を誇る中国の乙女と、まだ無教養の闇に浸っているよそ者の娘とでは身分もかけ離れていると思ったからです。
しかし、コーヒーの花はたいへんに鋭敏で洞察力もありましたので、親切の裏に潜むこうした気持ちに気づかないはずがありません。また、彼女はそれを我慢するにはあまりに誇り高くもあったのです。
「ねえ、お茶の花さん」と、彼女はふたりだけになった時に話を始めました。「あなたはわたしに偉そうな態度をお取りになるけど、わたし不愉快だわ。あなたに保護者みたいにしてもらう必要なんてないし、そもそもわたし、あらゆる点であなたにひけをとってはいませんもの。」
そこで、お茶の花はこう答えます。
「わたくしの貴族の身分はあなたのよりも六千年も古い、由緒正しいものなのです。なにしろ中国、すなわち知られる限りもっとも古い王国がつくられて以来のものですもの。」「それがどうしたの?」「あなたはわたくしを尊敬しなくてはならないということですわ。」
さて、読者の皆さまにお伝えしておかねばなりませんが、この会話は漆ぬりの小さな食卓をはさんで交わされていました。そしてその優雅な食卓の上にはお茶とコーヒーのポットが置いてありました。ふたりの花はオ知の働きを活発にするために、それらの容器にいれた剌激性の液体にしばしば頼っていたのです。
「あなたは味もそっけもないわ。」と、コーヒーは攻撃します。「だから中国人はあなたを捨てて、かわりに阿片を楽しむしかなかったのよ。甘い夢を生む剌激なんかあなたにはもう感じなくて、ただ食卓の習慣で出しているんだわ。わたしたちの国で林檎酒をテーブルに置くみたいなもんだわ」
「わたくしは中国の人々に勝った国民さえ征服いたしましたわ。」と、お茶は反撃します。「わたくしは英国を支配しておりますもの。」「あら、わたしはフランスを支配してますわ。」「わたくしはウォルター・スコットとバイロン卿にインスピレーションを与えました。」「わたしはモリエールとヴォルテールのオ知に勢いを与えましたわ。」
「あなたなど、ひとの身体をだんだんと駄目にするではありませんか。」「まあ、あなたこそ、ありふれた食後酒みたいなもんよ。」
お茶の花はひと息ついて攻撃を開始します。「湯沸かしが調和のとれたささやき声をあげる時、ひとはそこに炉端の精霊の歌を聞くように思います。わたくしの色は乙女の金髪にも似た黄金色です。わたくしは北国の詩情、淡く憂愁な詩なのです。」
「わたしは熱帯の娘たちのように綺麗な黒い肌をしてるわ。」と、コーヒーが反撃を始めます。「あの娘たちみたいに情熱的なの。ぱちぱちした炎のように血の中にすべり込むわ。わたしは南国の恋だから。」
「あなたはむやみに興奮させるけれども、わたくしは慰めを与えます。」「わたしはひとを力づけるけど、あなたは無気力にするじゃない。」
「わたくしには心が味方します。」「わたしには頭のひらめきがあるわ。」
ふたりの花たちはすっかり興奮して、お互いの花びらをむしりかねないほどの有様です。
とはいえ、息をつくと、ふたりはこの論争を裁判所に持ち込むことにいたしました。お茶好き、コーヒー好きそれぞれ同数からなる法廷でことの決着をつけてもらうのです。
さて、この裁判は何世紀にもわたって続けられていますが、まだ判決は出ていないという話です。
ドーミエ風カリカチュアのズートピア版カフェのにぎわい。