初めてオイゲン・ミュラー・ドンボワのリュートを聴いたとき、とにかくビックリ。
そのCDの中で、とみにヴァイスの「不実な女」というタイトルの曲に惹かれました。
このタイトルで興味を惹かれない男がいたら----むしろおかしいと。
個人的な感想は、実にタイトルどおりのイメージの曲だ!!ということ。
理由はわかりません。絵画のリュートを抱えた女たちを思い出しのか、それとも「第三の男」のアリダ・ヴァリを思い出したのか。
「不実な」「女」と撥弦楽器に相関を感じました。
いわくのある曲であり、諸説份分。誰しも「不実な」理由と「女」が誰か気になりました。
異国情緒の異国を自国に対して「忠実でない」とする説など。
それでも「不実な女」という日本語のタイトルに惹かれたものです。誰に対してどのような「不実」なのか。
アンナ・マグダレーナと不実な女がミュゼットを奏でる
ビリー・ワイルダー監督の映画「シャーロック・ホームズの冒険」に登場するドイツのスパイ。ジュヌビエーブ・パージュ演じるガブリエル・パラドン夫人、実はイルゼ・フォン・ホフマンスタル。写真のように傘でモールス信号を打ちます。確か横浜で逮捕され処刑されます。藤兵衛氏の「不実な女」フランス人というのは説得力があるかも。
なんてメモしていたら、下記の後日談が。
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2009年05月
下記はリュート奏者、中川某氏のブログの2007年の項から。検索ででてきました。
検索では同時にクロード・シャブロルの「不貞の女」という映画の原題La Femme infidèle も。
ヴァイスのソナタのタイトルは、フランス語なので 「ランフィデル」 だそうです。
事実だとするとすごい発見ということになりそうです。
以下はその記事の日本語訳です。
「悪女の肖像」ということで。個人的な感想で、さらに。
犬神松子は琴を弾きます。青池リカは娘義太夫あがり。道成寺の鐘。20年前の凶器、月琴。
横溝正史は音楽文化と関わりが深く、「本陣殺人事件」でも琴を鳴らし、「悪魔が来たりて笛を吹く」では黄金のフルートが。息子は評論家になり、隣家には植村泰一がいました。というより、往時の作家にとっては当たり前の教養だったのでしょう。(「悪魔が来たりて笛を吹く」というおどろおどろしいタイトルですが、フルートだけでなく、帝銀事件、ゲーテ、太宰の「斜陽」まで視野に入れて、ある意味小説家の鑑ですな)
こんな機会に並べてみると、「不実な女」たちは男性の想像の中にはこんなにたくさんいて、ですから男の頭の中はいつも「女とはこうしたもの(コシファントゥッテ)」なのかもしれません。
最後にもうひとり挙げておきたいと。
エルナン・コルテスのメキシコ妻マリンチェ。部族にとっても夫にとっても「不実」ではないはず。しかし、ロマンチックな歴史の上ではアステカを滅ぼした「不実な女」になるのかしら。いやいや、やはり渡来した白人を受け入れるのは、彼女が偏見や差別意識がないからでしょう。侵略者コルテスの側の論理で、彼女を「不実な女」にしては、おそらくいけませんね。千葉御宿の人々がメキシコの難破船を救助したのと、おそらく同じこと。