リファレンスについての感想
わたしは、2005年にコーヒーの品質と風味味わいを評価する資格のトレーニングを受けにアメリカに行きました。
トレーニングの際、なぜか印象に残っている講師の言葉は「リファレンス」です。
「reference」は、「言及、参照、参考文献」というような意味です。
カタカナ表記は「リファレンス」とも「レファレンス」とも。
お客様に味風味を伝え、お薦めする上で「リファレンス」を共有するところから始め、参照の目安をもって比較試飲をしていただくことが、ていねいではないでしょうか。
その「リファレンス」の共有を飛び越して、鮮やかなアナロジープレゼンでは、それってあなたの感想ですよね、といわれそうです。
記憶の中ではこんな感じです。
講師より。これから中米水洗式アラビカコーヒー6サンプルのカッピング(コーヒー粉を湯で浸漬し上澄みを試飲する)を行います。目的は、複数参加者が同じカッピングの作法を習得すること。作業のバラつきで、サンプルの抽出がバラつくことを防ぎます。試飲して味風味の評価の記入方法と点数評価の目安を共有化します。
最初に「リファレンス」サンプルをカッピングします。感じたままの評価ののち、具体的なコメントを発表してほしい。
コーヒー企業に勤務している参加者が「中米の標準的なコーヒーで、酸味が強くなくソフトな印象」と発表したところ----。
講師「このリファレンスはメキシコ、ベラクルス州産で、管理のよくないパーストクロップ(前年度産)。麻袋臭が感じられます。講師の評価は70点です」「これから行う6サンプルの中の1つが、リファレンスと同じものです。リファレンスについては70点相当の評価点をつけるよう自分の評価規準を調整(カリブレーション)してください。もし同程度のサンプルと感じたら、同程度の評価点をつけてください」。
実際に評価を行い、わたしは70点相当のコーヒーは「リファレンス」と同じものひとつ。あとの5サンプルのうち、3サンプルは80点から82点、残り2サンプルが83点から85点に採点しました。
参加者の中には、わたしが85点と採点したものを80点未満とする人もいました。7割がたの参加者は、80点未満グループ、80点以上84点未満グループ、85点以上グループの評価分けをしていました。講師と7割がたの参加者の評価の物差しを共有化し、極端にかけ離れた評価採点をしていた場合は、自分の評価規準を調整することが求められました。
わたしにとっては、リファレンス・サンプルの評価を共有できたことで、その後のトレーニングの助けになりました。
様々な業界ごとに「リファレンス」の意味や使い方が違います。検索した「リファレンス」のいくつかを抜き書きし、試しにコーヒーの世界にあてはめてみました。
小さな自家焙煎コーヒー店を「利用する方法を知りたい」とは、まさにピッタリです。
「調べるコツ」をサポートしてくれる人のことです。その店の「コレクション」を知り尽くしている人が前提なので、簡単に対応力が身につくものではありません。「リファレンス」同志のネットワークを築いて孤立化を防ぎ、自営のコレクションの意思を磨かなければなりません。
「正常値がすでに検出されている」リファレンス・サンプルのコーヒーがあらかじめ設定されていることを表わします。リファレンス・サンプルのコーヒーのカッピングは、「見つけたい味風味」と「避けたい味風味」の目安を表わしています。
「後から加わった」人がスムースに参加できるように、コーヒーの場合は、味覚評価のトレーニング方法やサンプルの作製方法などを規定書(レギュレーションブック)化しています。とはいえ、これらは実技講習と相まって理解しやすくなる文書です。まして一般のお客様に対して応用するには、また別のマイクロティーチングを構築し習得する必要があります。時折、初めて訪問したお客様に、まるでプロ相手に対抗的説明をするかのようなコーヒー店に遭遇することがあります。
リファレンス・サンプルのコーヒーについて共有化するために情報を隠して(ブラインド)匿名で試飲をしますが、共有化後は、サンプルのコーヒーの仕様情報も共有化していきます。
ブラインドといっても目的ある試飲ですから、目的を説明し、生産国や地域、品種、生産処理方法は明示されてしかるべきです。
2007年か2008年ころ、アフリカ某国のコーヒーのカッピングに参加しました。スペシャルティコーヒーのカッピングが明示された集まりでした。匿名出品された10サンプルのうち、8サンプルは水洗式アラビカでしたが、2サンプルはロブスタでした。生産国の人たちは、当然の選抜でした。当時は出品番号だけで、特に品種が明示されてはいませんでした。