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接頭辞 erz-
今回はマニアックな話になりますが、名詞や形容詞に付けて「第一、最高、主要」などを意味する接頭辞 erz- というものを扱います。
ドイツ語の erz- と同じはたらきを持つ英語の接頭辞に arch- があります。erz- も arch- もギリシャ語、ラテン語に由来しています。「アーキタイプ」というカタカナ語を見たことがある方もいらっしゃると思いますが、スイスの精神学者カール・グスタフ・ユングが用いた言葉で「元型」と訳されます。ユングはドイツ語で Archetyp と書いたのですが、それが英語では archetype となり、日本ではアーキタイプとなったようで、arche-「第一の」+typ「タイプ、型」で「元型」とか「祖型」という意味になっています。
調べてみるとドイツ語の Architekt、英語の architect「建築家」も、もともとはイタリア語 architetto やラテン語 architectus に由来し、「上位の大工」というような意味だったようです。
あとは ドイツ語 Archäologie「考古学」(英:archaeology) や、形容詞 archaisch 「古代の、アルカイックの」(英:archaic) なども arch- を含んでいます。
このように英語やドイツ語には ギリシャ語、ラテン語の形とほぼ同じ arch- という綴りが今でも残っているのですが、ドイツ語の場合はこれとは別に、おそらく arch- から音が変化した erz- という接頭辞が別で存在しているのです。
ということで前置きが長くなりましたが、接頭辞 erz- の付いた名詞、形容詞を紹介していきます。
Erzbischof 「大司教」 Erzbistum「大司教区」
カトリックでは大司教、東方正教会では大主教というそうですが、Bischof「司教、主教」に erz- がつくことで、より高位の大司教・大主教を意味します。英語では archbishop と言います。
日本のカトリック界では、東京、大阪、長崎に大司教区があり、それぞれに大司教がいます。「司教区」はドイツ語では Bistum、「大司教区」はErzbistum となります。
Erzfeind「不倶戴天の敵」
Feind「敵、敵軍」に Erz- が付いています。キリスト教では「悪魔、サタン」を意味します。英語では archenemy (Arch Enemy) といいます。たしか北欧のメタルバンドの名前にもなっています。
似た意味のものとして英語には archrival という語もあります。「最大のライバル」という意味です。日本のマンガの英語版で使われてそうな単語ですね。
Erzlügner「大嘘つき」 Erznarr「大馬鹿者」
Lügner「嘘つき」、Narr「愚か者」に Erz- が付いていますが、元の意味はだいぶ薄れて単なる強調のようになっています。
erzböse「極悪な」 erzfaul「怠惰きわまる」
これら形容詞に付けられた erz- も、ほぼ強調として使われています。元の形容詞はもちろん böse「悪い」と faul「怠惰な」です。
これ以外は、辞書を見ていると、中世や封建社会の官職名などで erz- がよく付けられていたようです。
それと、接頭辞とは関係なく das Erz「鉱石」という単語があるので、Erz- で始まっているからといってすべてが「最大の」とか「主要な」といった意味になるわけではありません。ドイツ東部には das Erzgebirge「エルツ山地」という場所がありますが、これも鉱石がよく採れるからで、接頭辞の erz- とは関係ありません。