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10.「わたし」とマニキュア。

「バカだなぁ、わたしは」
と、少しだけ気持ちが沈んで
ため息をついた。

友達の家で貸してもらった
ローズピンクのマニキュア。
指先だけ見てると
誰か私じゃない、"いい女"の指先みたいで
ちょっとむずがゆかったけど
嬉しかった。

まるで私がいつもより
"いい女"になったみたいと錯覚した。

だけど数日たった今
なんだか爪が息苦しくてたまらない。

「早く落として」って
薄い酸素にあえぎながら 言われているような…。

あぁ、そうか。
爪先だけ"いい女"の振りしても
やっぱりダメか。

マニキュアの下に隠された
本当の私は。私は……。

今晩にはマニキュアを落とそう。
"いい女"の振りなんて やめてしまおう。

マスカラも、ハイヒールも苦手なわたしは
世間的な"いい女"からは外れてる。

だけど 何もなくなったとき
ただの私になったとき
それこそ胸をはって笑って
身軽にダンスのひとつでも踊れるような
そんな人になりたい。

そんな人に……
まだまだ遠いけど
少しずつ、少しずつ、前を向いて。
心の鎧をはがして
怖がりも個性だと飲み込んで。

力まずふわりと笑いたいんだ。
それが、わたしの心のおしゃれ。

まずはそこから。

それから。

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