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錆びたバケツ
そのバケツは、錆びていました。おまけに、穴も空いていました。その上、少し凹んでいました。
ですから普通のお店だと、いつ捨てられてもおかしくはないのですが、おじさんは、決して捨てませんでした。
だけどバケツは、それが辛くて、心苦しく、かすれた声で、おじさんに向かって言いました。
「捨ててくれてもいいんだよ。おいらみたいにサビサビで、役に立たない用なしは…」
けれども、お店のおじさんは、温かい手で、そんなバケツに触れながら、励ますように言いました。
「用なしなんかじゃないですよ。あなたはむしろ、どのバケツにも負けないぐらい素敵だし、きっと役に立ちますよ」
錆びたバケツは、おじさんのその優しい言葉に、どれだけ救われたことでしょう。
それでも内心、錆びついている自分のことを、受け入れられず、淋しく思っていたのです。
そんなある日のことでした。お店に突然、お洒落なフリルのドレスを着た、フランス帰りの小粋なマダムがやって来たのは。
そのマダムは、お店のおじさんに挨拶をすると、お店の入り口付近にあった、そのバケツを手に取って、目を丸くして、嬉しそうに言いました。
「まあ素敵!なんてシャビーなバケツなの!このサビ具合が最高ね。それに、穴が空いているから、花を入れるのにちょうどいいわ。凹みもなんだか、愛嬌があって可愛いし。以前から、こんなバケツを探していたのよ」
それを聞いて、マダムの言葉が信じられないバケツでしたが、おじさんは、ほら見なさいと微笑みながら、こっそりと、バケツにウインクしたのです。
その後、バケツはどこで、どうしているかと言いますと、マダムの家の野原のようなお庭の中で、綺麗な花と、仲良く過ごしているそうです。
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