<不動産仲介ヒヤリハット!>(18)半年前にあった飛び降り自殺
10/4発売『ヒヤリハット! 不動産仲介トラブル事例集』から、トラブル事例を紹介します。noteの記事タイトルの事例番号は書籍にあわせています。
トラブルの要点
中古マンション購入後に、このマンションで飛び降り自殺があったことが判明
トラブル発生の概要
買主Yは、仲介会社Aの媒介で中古マンション(PDFファイル内 資料①参照)を購入し、入居から半年ほど経過した頃、同マンションの居住者から1年ほど前に飛び降り自殺があった事実を聞かされました。
この事実は、取引物件内で起きたことではなく、物件の外である共用部分で起きたことですが、買主Yにとっては、まったく知らされていない想定外の事実であったため、仲介会社Aに対して、「こんな事件があったことは聞いていない。説明する責任があるのではないか。」とクレームがあり、仲介会社Aには手数料の減額を、売主Xには損害賠償の支払いを求めてきました。
トラブルの原因
仲介会社が負うべき調査説明義務の範囲は、基本法令のみならず、物件の利用にかかわる法的な規制、物件の周辺事情も含まれ、購入の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる 理的瑕疵もその対象に含まれます。
心理的瑕疵とは、その不動産において、過去に他殺、自殺、事故死など、人の死が発生したことなどが原因で『住み心地の良さ』を欠く状態となっていることで、このトラブルのケースでは、新聞記事になるほどの事件ではなかったものの、引渡しの半年前に発生したものであり、当時、救急、警察などの緊急車両が多数出動したことから、居住者のほとんどが知るところとなった事実でした。しかし、その事実は取引物件内で起きたことではなく、取引物件とは別の場所で起きた事実であるため、仮に訴訟になったとき、売主及び仲介会社の告知義務について当然に認められるかどうかは微妙な問題ですが、現に買主からクレームが出たことは間違いありません。
発生当時、売主Xはこのマンションに居住していましたので、自殺があった事実を知っていたと思われますが、仲介会社Aへの説明はなく、売買契約時に作成した「物件状況報告書」(PDFファイル内 資料②参照)にも当該事実についての記載はありませんでした。つまり、売主Xから買主Yへの説明は一切ありませんでした。
仲介会社Aは、調査の過程でこの事実を認識するに至らなかったのですが、売主Xに対して、「物件状況報告書」の記載における告知義務の重要性については、十分な説明ができていたとはいえませんでした。
管理会社や管理組合の理事長へのヒアリング等で十分な調査が実施できていれば、事実を把握する可能性もあったと思われます。
結果として、買主Yが近隣住民を通じて知ることになったこの事実は、発生からの時間経過が引渡しまで半年間と短く、近隣居住者のほとんどが記憶しているにもかかわらず、買主Yへの告知がなされなかったことがトラブルの原因となりました。
トラブル対応および再発防止対策
仲介会社Aとしての調査義務についてですが、心理的瑕疵についての調査において、近隣住民にヒアリングするなどの方法は、情報の正確性の確認やプライバシーに対する配慮から、慎重な対応が必要であり、過去の裁判例などを見ても、心理的瑕疵について自発的に調査を行うまでは必要ないとされていますが、売主については、その事実を知っている以上、告知義務があるとするのが判例です。ただ、本事例は取引物件内の事実ではなく、取引物件とは別の場所での事実のため、売主及び仲介会社に告知説明義務があるか否かは、前述のとおり、大変微妙で、仮に裁判になったときは、大きな争点になると思いますが、少なくともトラブル防止の観点からは、告知しておくことが適切と言えます。
仲介会社としては、売主に対して、過去に生じた重要な事項の告知を怠ると、説明義務違反を問われることになり、場合によっては、損害賠償請求や契約解除などを求められる可能性がある点を十分に説明することが重要です。
その上で、「物件状況報告書」には、過去に発生した事案についての記載漏れをなくし、正確な内容を記載してもらうことに留意する必要があります。
もし、その事実が瑕疵と認定された場合に売主が負うことになる契約不適合責任ですが、 買主には、①「目的物の追完(修補等)請求権」、②「代金の減額請求権」、③「契約解除権」、④「損害賠償請求権」があり、④は、売主に落ち度がなかった場合、売主は責任を負いま せんが、①~③は、売主に落ち度がなかった場合でも責任を負うことになります。
トラブルの解決に当たっては、買主Yに謝罪した上で、対応策について交渉が行われましたが、自殺が発生した時期が引渡しの半年前と時間経過が短く、居住者の多くが認知していた上に、売主Xの告知義務違反の可能性もあり、仲介業者Aとしても、調査説明義務違反に問われる可能性があったことから、売主Xは、売買代金の5%相当額を減額し、仲介会社Aは、買主の媒介手数料を放棄することで、解決することとなりました。
本件トラブルの原因となった瑕疵は、心理的瑕疵とされるものの一つですが、仲介業者は、宅地建物取引業法に定める「調査義務」と「告知説明義務」があり、心理的瑕疵に該当すると思われる事項について説明する必要があります。
心理的瑕疵の判断については、過去の判例では、時間的経過や事件事故の重大性、買主の使用目的、近隣住民に記憶が残っているかどうかなどによって判断が分かれており、告知の範囲について、明確な基準があるわけではありません。
一つの指標として、自分が買主なら「その事実を知っていれば、購入の判断をしなかった」、「知っていれば、その価格では買わなかった」と思うような事情は告げる必要があると判断すべきです。
国土交通省では、過去に人の死が生じた不動産において、当該不動産の取引に際して宅地建物取引業者がとるべき対応に関し、宅地建物取引業法上負うべき責務の解釈についてガイドラインを定めるべく、「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」の議論を経て、「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」をとりまと めています(別紙PDF「統括コメント」参照)。
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