「本なら売るほど」(児島青/著)
町の小さな古本屋「十月堂」を舞台に、店主の青年と店を訪れる客の面々を描いた短編連作のコミックです。
1本目、亡くなった人の蔵書の処分(買い取り)を依頼され、その家を訪れた店主(名前ない)。
この! 家! 本好きの憧れと理想が詰まってる感じですね! 家じゅうみっちりと本だらけ、ところどころにおもちゃが飾ってあったり、私この家に住みたい! ってか、こんな家を作りたい! って思いましたよ。
でも持ち主は亡くなってるわけで、相続人はたぶんその蔵書には興味なし、古本屋もすべて買い取ることはできない。多くは処分されてしまうことになります。
「誰も読まなくなった本」という言葉が出て来ますが、いくら愛した本でも手に取る人がなければただの邪魔な死贓品。できることなら読んでくれる人、楽しんでくれる人の手に渡って欲しいものですが、現実は厳しいです。
そんな本好きの「あるあるわかる!」が詰まってる漫画ですが、そんな中でちょっと異色なのが5本目「当世着倒気質」。着物好きの若い女性・橋本さんと彼女が病院で出会った高齢女性を描いていますが、このおばあちゃんがめっちゃカッコいい!
普通は見えない八掛(着物の裏地)に髑髏を仕込み、「メメント・モってるの」というその科白! 病院というその場所で「死を思う」というのは、けっこう厳しい病気と闘ってるのではないかと想像できるのですが、おばあちゃんは軽やかです。
冒頭で橋本さんはいわゆる「着物警察」に出会って憤慨してましたが、服は(和服でも洋服でも)自分の着たいように着ていいのだと、改めて思いました。実際、着物が普段着だった時代にはもっとずっとゆるっと着てたそうですしね。
自分らしさ、自分の「好き」を肯定してくれるお話でした。
そんな感じで、本を「繋ぎ」に、いろいろな人を描いています。
本は、私にとっては別の世界に連れて行ってくれる素敵な魔法ですが、興味のない人にとってはただの物(場合によっては道具だったり邪魔だったり)でしかないということも、改めて感じたり。
あとがきを見ると、単発の作品だったものが連載に発展したそうで、なるほどって感じですね。私も本屋さんで見かけて何となく手に取った本でしたが、良き出会いでした。続きも楽しみです。