枕神(短編小説/374字)
枕だってたまにはぐっすり眠りたいはずだと考えた私は、枕用ネグリジェを仕立てて着せ、枕用枕を作って枕の下に敷き、枕用シーツをかぶせ、一日ベッドに寝かせておいた。私はソファーで横になる。
夜、枕神が枕元――ではなくソファー元に立って、告げる。
「こんなにも枕のことを想ってくれた人はあなたが初めてです。お礼に、枕投げで必ず命中する枕パワーを授けましょう」
社員旅行、新婚旅行、傷心旅行、家族旅行、ありとあらゆる旅行の枕投げにおいて不敗神話を築き上げた私は、病床で枕言をつぶやいている。
枕に身をささげた人生も、そう悪くはなかった。
微笑んだ私は、ゆっくりとまぶたを閉じた。
「といった人生プランも可能ですが、いかがですか」
「お断りします」
枕営業を企てる枕神を追い返して、私は今日の分の睡眠薬を口にする。
眠れない人の気持ちも知らないで、なにが枕投げだ。
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