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【寄稿】「成人式を人材獲得のチャンスに」(2020-05-13 河北新報)

 地方の企業は人材難である。
 山形県の場合、高校卒業者の約7割が県外に進学する。彼らは多くの場合、進学先の大学等で大手就活サイト運営企業による「就活セミナー」を受け、会員登録し、そこから続々と供給される情報に基づいて就活をスタートする。その情報の発信源は多大な出稿費を払える巨大企業が中心であり、地方出身の若者たちは自ずと大都市への就職へと進むこととなる。

 人材難という地域経済の死活的課題には、当然、自治体も種々の対策を講じている。産学官連携の対策組織を立ち上げたり、公営の求人情報サイトや合同企業説明会を設けたりする動きが目立つが、それで正鵠を得たといえるだろうか。地元企業の情報サイトや説明会は、元から地元就職を視野に入れた若者が触れるものである。真に狙うべきは、もともと地元への就職を考えていなかった若者に、地元就職のビジョンを提示することではないか。

 そのためのチャンスとして活かせるはずの機会を、自治体はすでに有している。成人式だ。地域外に進学・就職した者も含め、地元出身の新成人が一堂に会する。20歳といえば、大学進学者なら就活開始直前であり、すでに就職した者でも離転職の割合が高い時期だ。

 この機会に地元就職をPRするのが望ましいところだが、全国を見渡しても地元産業界が前面に出る形の成人式を行っている自治体は無い。成人式は「教育の場」として自治体の教育委員会が掌握しており、経済活動は埒外とされているようなのだ。

 地方の自治体はいずれもUターン者獲得に力を入れているというが、成人式をそのためのチャンスとして活用しようという動きはみられず、実にもったいなく思われる。

 私は、成人式を地元産業界の若手が主導する形に刷新することを提言している。首長が壇上から演説を垂れるのではなく、地元で生きる若者が動画やトークで自分たちのライフスタイルをプレゼンし、新成人たちを地元に「勧誘」するイベントとしてはどうか。そこで「地元で暮らすシナリオ」を印象付けられれば、それが後々、就職・離転職・結婚などのタイミングで選択肢として浮上するだろう。

 いきなりの刷新は難しくとも、式典の後に「祝賀会」を新成人有志と地元の若手が共同企画するとか、成人式を行った年のお盆に、カジュアルな形式の「もう一つの成人式」を開くといった取り組みは、十分実現可能と考える。

 自治体関係者に聞き込みをしたところ、こういった変革は組織の内部からは言い出しづらく、民間側からの働きかけが有効なようである。成人式は、民主導で政策にイノベーションを起こせるポイントだ。新型コロナウィルス対策により多くのイベントが中止・延期となっている今は、来たるべき終息の時に向け、これまでの慣例を改めるための策を練る時間ではないだろうか。各地の青年会議所をはじめ、明日の地域経済を担う有志に、ぜひ献策したい。

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