【#読物語:マンガ】「黒執事」サーカス編(作:枢やな)
一世を風靡する芸能集団の背後にささやかれる非道の疑惑を暴くため潜入調査、やがて集団の総帥たる老人の真の姿と少年たちへの行いを目の当たりにする――。現代日本を予言したかのような物語が、「黒執事」サーカス編だ。
「黒執事」は、19世紀ヴィクトリア朝大英帝国が舞台の、重厚なサスペンスファンタジー。主人公は、「女王の番犬」の名を継ぐ少年貴族・シエルと、超人的な執事・セバスチャン。歴史上の出来事が各編の題材であり、その裏には悪魔や死神といった存在が暗躍していた――という世界観である。
「サーカス編」の題材は「ハーメルンの笛吹き」。人々が熱狂するサーカス団が巡業する先で子どもが失踪するという謎を解明するよう密命を受けたシエルは、ジュニ……いや見習いとしてサーカス団に潜入し、団を支配する「お父様」と呼ばれる人物が謎の中枢であると突き止める。かつて団員たちにとって救い主であった「お父様」は、いつしか心を歪ませ、裏で見るに堪えない行いを……。それを知ってしまったシエルは、どんな決断を下すのか。
序盤はコミカルながら、当時の英国の社会問題に立脚したストーリーであり、謎が明かされる終盤にかけて、「美」が人の心を狂わせること、閉鎖集団が信じる幻想、伏線を握る人物が問う生命倫理――と、古今東西の物語における普遍的なテーマが見事に織り交ぜられた傑作。
このサーカス編は6-8巻。原作マンガのほかアニメ版、舞台版がある。ここから読み始め、次に4-5巻「カリーの王子様編」、2-3巻「切り裂きジャック編」と遡るのがおすすめ。