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そのファンドは持続可能か?

投資信託の運用手数料の話。

 先日、全世界株式を指標とするインデックスファンドにて、これまでの信託報酬のほぼ半分で済むファンドが登場したことが話題となった。信託報酬0.1%をなかなか切れずにいた、全世界株式のインデックスファンドにおいて、米国株式のそれよりも安いファンドが突然現れたことから、SNS界隈では様々な意見が飛び交っている。

 確かに運用手数料は安いに越した事は無い。それは私も以前から記していることもあり同意する。しかし、儲けが出なければ事業として持続しない可能性が潜んでいるため、即座に飛びつくのではなく、これまで実績のあるファンドが、信託報酬の引き下げに追随するのかを、様子見してから行動しても、決して遅くないのではないかと考えている。

 と言うのも、既に優良と持て囃されているインデックスファンドの類は、十分過ぎるほど、信託報酬が低廉化されており、規模の経済が働かない限り、これ以上の信託報酬引き下げは運用会社や金融機関側の身を削る可能性が高いように感じているからだ。

 投資信託を保有している人でも、信託報酬がどのようにして徴収されているのか、仕組みが分からず運用している人は多いと思う。

 ざっくり記すと、月末などの一定期間経過時に、日々刻々と変動する基準価格から、手数料を差し引く形となっているため、信託報酬は顧客から直接お金を取っているわけではない。

 裏を返すと、市場平均と連動することを目標としているインデックスファンドの場合、運用期間が経過すればするほど、信託報酬を徴収しなければならない分だけ基準価格が下がるから、運用パフォーマンスは市場平均よりもコストがかかっている分、劣る方向に乖離していくのが常である。

透明性を求めるならETFも視野に。

 つまり、市場平均のパフォーマンスよりも、ちょっと下の位置で基準価格が追従できているファンドは、運用に必要なコストに無駄がないため、効率の良いファンドと捉えることができる。

 この前提を踏まえた上で、運用総額も大きく、信託報酬も0.1%前後と優良ファンドであるeMAXIS Slimなどで、リターンを見ていただければ、既に市場平均との乖離は、誤差の範囲内と捉えられるレベルで、効率的な運用ができていると捉えられる。

 ここから更に、信託報酬を半分にカットしたファンドが爆誕したことで、得られるであろうリターンと、想定されるリスクを天秤にかけた時に、リスクに見合うだけのリターンが得られるかは真剣に考える必要がある。

 そもそも論、投資信託で生じるコストは、何も信託報酬だけでなく、売却並びに解約した際に支払う信託財産留保額、いわゆる隠れコストが存在する。お金を増やそうと思って資産を運用するのだから、手持ちのキャッシュでファンド購入、運用し、それを現金化するまでに要したトータルコストで判断した方が理にかなっている。

 とはいえ信託財産留保額は実際に解約してみなければ、いくらになるか分からない不透明さがあるため、信託報酬だけを基準に最も低廉なものを選んでも、最終利回りが最も低廉とは限らない。

 現にeMAXIS SlimシリーズとSBI・Vシリーズでは、後者の方が信託報酬は安いものの、隠れコストを加味したコスパの良さは前者となる。

 新しく出てきたファンドも、隠れコストを加味すると、コスパの逆転現象が発生する可能性は大いにあり得る。これらの煩わしさを嫌う人は透明性の高いETFを購入した方が無難だろう。

低廉さが仇になる可能性。

 それに、以前にも記したが、商売は儲けが出なければ続けることができない。だからと言って、ぼったくっても良い理由にはならないが、事業を永続させるためには、適切な利潤が必要不可欠である。

 コストが低廉な投資信託をNISAで運用するのが手堅い選択のひとつだが、肝心の投資ファンドが事業として成り立たず、解散してしまうと、不本意なタイミングで換金される可能性もある。

 2024年からの新NISAであれば、暦年をまたぐことで非課税枠が復活する仕様になるとのことで、痛手ではあるが、致命傷にはならない。

 しかし、2023年までの現行NISAの場合は、一度売却してしまうと、非課税枠が復活しないため、例えばつみたてNISAで20年間非課税で運用できるはずが、12年後にファンドが解散して清算されてしまった場合、恩恵を受けられたであろう。残り8年の非課税枠は無駄となってしまう。

 0.1%に満たない信託報酬を引き下げたが故に、肝心のファンドが持続しなかった。なんて事態になったら、私だったら悔しくて仕方がないと思う。

 その点、ファンド全体の純資産総額が数兆円規模と、既に大阪府の予算を上回るような運用会社で事業が成り立たず、解散などしようものなら、国策で貯蓄から投資を謳った手前、影響は計り知れないだろうから、個人的には引くに引けないと踏んでいる。

 できたばかりのファンドであれば、純資産総額など大した額ではないから、思いの外うまくいかなければ、早いところ解散してしまおうと考えても不思議ではない。

 安物買いの銭失いとはよく言うが、目先のコストをケチったが故に、後々、大きな損失や機会損失が生じるリスクと、想定され得るリターンを天秤にかけると、どう行動するべきかは自ずと見えてくるはずだ。


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