持ち家賃貸論争の補助線。
費用の変数が多くなる持ち家。
永遠に決着のつかない論争のひとつに、住宅の持ち家か賃貸か挙げられる。私は状況に応じて住環境を柔軟に変えられる点で賃貸派のため、出来る限り中立で記すつもりではいるが、賃貸寄りのバイアスが掛かっている前提で読んでいただくことで、偏りがより補正されると思われるため、敢えて賃貸派と記した。
ちなみに、三井住友トラスト・資産のミライ研究所が、50年で掛かる総額を数字で綿密にシミュレーションした結果、五十歩百歩ではあるものの、現状では賃貸の方が、若干ながらコスト面では安価な結果が出ている。
とはいえ、引用元の記事でも伝えられているように、住宅ローンの減税効果などの税制面は、50年先まで制度変更されないことが現実的ではないことから、試算に含めていない。
つまり、状況によっては持ち家の方が安くなる場合もあれば、反対に修繕費用が嵩んで更に割高となる可能性も否めず、持ち家賃貸論争で重要なのは、総額の多寡よりも、持ち家だと変数が多く、総額も大きく左右される点が挙げられている。
住宅ローンひとつ取っても、固定金利なのか、変動金利なのかで利率が異なる。全期間固定にすると、金融機関がリスクを取らなければならない分、利率は高くなるし、利率を低くしようと変動金利を選択すれば、昨今のインフレ圧力で利上げが加速すると、金利が1%動くことで数十万円〜数百万円単位で総額が変動することになる。
いつまでも低金利とは限らない。
これまで賢い人は、ゼロ金利やマイナス金利でコストが殆ど掛からない時は変動金利で組んで、金利が上昇し始めたら固定金利に借り換えれば良いとタカを括っていた印象がある。
昨今のインフレ騒ぎとなる以前に、職場内で聞いた内容だが、個人的にはこれには盲点があると思っている。
変動金利の利率を左右するのは短期プライムレート、つまり政策金利。固定金利の利率を左右するのは長期プライムレート、これは10年物国債となる。
ここ最近、実質利上げで話題となっているのは10年物国債であり、影響が出るのはこれから固定金利で住宅ローンを組もうとする人や、2年〜20年の固定期間の契約が満了して、改定しなければならない人となる。
一方の変動金利を左右する短期プライムレートは2009年から未だ据え置きのままで、今年の1/17〜1/18に開いた金融政策会合でも現状維持が決定された。直近10年の契約時に適用される利率を見ると、変動金利は固定的で、むしろ変動しているのは固定金利側と実にややこしい状態となっている。
イールドカーブコントロール(YCC)が10年の部分だけ不自然に凹んでいるのも、住宅ローンの利率を抑えるための配慮と思われるが、日銀総裁の交代で運用の見直しが行われそうなことからも、歪みのあるYCCに真っ先にメスが入れられるものと思われ、それは固定金利の利率が先に上がることを意味する。
つまり、変動金利でタカを括っている人は短期プライムレートの煽りで利率が高くなったからと、固定金利に乗り換えようとしても、ただでさえ高く設定されている固定金利の利率が、更に上昇する最中で契約せざるを得ないことを意味する。
この変数はバカに出来ない。これまで失われた30年の金利が低過ぎたために、今よりも下落する方向に動く可能性はゼロではないものの、限定的で考えづらく、個人的に住宅ローン金利は、今より上がることはあっても、下がることはないと踏んでいる。
これまでの日本社会はデフレ故、超低金利で推移しており、限りなくゼロに近い利子で住宅ローンを組むことができたが、それらが完済する時まで継続する保証などなく、いつまでも低金利で借りられるとは限らない。
住宅費用はワンミスが大打撃となる。
持ち家派の伝家の宝刀として、資産になるが挙げられるが、人口減少社会の日本で、本当に世間一般がイメージするような資産になり得るのか、いささか懐疑的である。
都道府県や自治体毎の人口動態をグラフで表してくれる統計ダッシュボードでは、2045年までの将来予測人口を知ることができるが、東京都特別区を見ても、2045年まで人口が増加し続ける区は千代田区、中央区※、港区、台東区、江東区、品川区程度なもので、都道府県庁所在地である新宿区ですら2045年には人口が減少する予想となっている。(2023年時点)
需給バランスと同等かそれ以上に重要な、立地を考慮した場合、実質的に人口増で不動産の価値が上がる可能性の高い場所は、千代田区、中央区、港区程度なものだろう。
※中央区はコロナ移住の影響なのか、2025年だけ人口が減少する見立てだが、団塊世代が平均寿命ラインを超えた2040年以降に増加することから、不動産の資産価値の観点では、例外的に千代田区や港区と同等の扱いでも差し支えないと個人的には判断した。
とはいえ、上記に所在する物件を推奨する意図はなく、投資は自己責任のため、各自で判断していただきたい。
不動産が本当に資産であれば、価値は殆ど減少しないか、インフレで通貨価値が下落する分だけ時価は上昇する。
2040年に空き家問題が予想されていることからも、ただでさえ流動性の低い不動産は、いざという時に売るに売れず、二束三文で売却、最悪の場合、土地にしか価値がつかず、建物は取り壊すなんて事態になりかねない。その費用も含めたら、最終的に持ち家の方が高くつく可能性が高い。
現役時代に完済できれば、老後に突発的な修繕費用がなければ賃貸よりも安価に住めるメリットは無視できないものの、裏を返せば、現役時代に賃貸なら発生しないであろう差額を運用して備えれば、絶対ではないがトントンか複利の分だけ負担が減らせる可能性はある。
それを考えると、資産形成のために計画的に運用したい方は、必要な時に必要なコストだけを支払う賃貸の方が合理的な選択なのかも知れない。
もちろん、価値観は人それぞれで、合理性ではなく、心の豊かさと言ったある種、自己満足的な趣味の世界を求め、住宅購入に至るのは個人の自由で、個人で形成した資産の使い道をとやかく言うつもりはない。
いずれにせよ、生涯賃金を鑑みると、人生において住宅費用のワンミスは、大打撃となる可能性が高いため、資金と知識を蓄えながら慎重に選択する必要があるのは間違いない。j