![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/150800719/rectangle_large_type_2_12c6a31b7258c9973a7eac44b8bd2fcf.jpeg?width=1200)
よく分かる分野ほど投資できない'e
バフェット氏の名言
投資の神様ウォーレン・バフェット氏の名言に「投資の対象は、自分に理解できる“シンプルなビジネス”に限るべきだ」がある。
投資対象から虚業を避ける意味合いはもとより、事業を理解できることで、大衆よりも解像度の高い状態から、事業の将来性を推測ったうえで投資判断に至れる優位性から、理解が追いつかない分野よりも、理解できるシンプルなビジネスに投じることを重視する格好だろう。
私は元鉄道員のため、鉄道業界の全体像は大衆よりも理解している自負があるうえ、退職後1年を経過すればインサイダー取引にも該当しないため、業界の動向を先読みした上で、周囲が潜在価値に気付いていない時から売買することも可能かも知れない。しかし、鉄道銘柄をこれまで一度として扱ったことがない。
強いて記せば、乗降人員10万人超の駅における、ホームドアの原則設置が国交省の通達で決定したため、ホームドア関連銘柄をかつて保有していたものの、結局のところコロナ禍の煽りで、鉄道各社が設備投資に消極的となった結果がモロに出て鳴かず飛ばずのため、手仕舞い売りした。
なぜ、よく知っている鉄道株には手を出さないかと問われれば、斜陽産業であることを肌で感じていて、将来性の欠片もないと思っていることや、業界各社の悪い部分も含めて知りすぎているが故に、そのリスクを織り込んだ株価水準とは思えないため、身銭を投じる気にはなれないのが正直なところである。
2ちゃんねる開設者のひろゆき氏もライブ配信でサイバーエージェントの株について質問された際に、「ITが分かりすぎていて、一般の投資家の気持ちが分からない」と返答していたのも同じ理屈だろう。
投資家、消費者、従業員で認識は異なる
私が保有していないTOPIX-17シリーズのセクターは、運輸物流に加えて、銀行、エネルギー資源の3つで、いずれも意識的に保有していない。
運輸物流に関しては、それで飯を食っていた元プロで、業種の構造を知りすぎているが故に、従業員目線でこれはないと思うような銘柄が、機関投資家に物色されていて割高だと感じるため、身銭を投じるには至らない。
銀行、エネルギー資源に関しては、他人の褌で相撲を取っている典型的な業種で、その割に保守的でリスクを取らない経営を行っているのだから、例え高配当であっても、セクターそのものに将来性や魅力を感じないことから、運輸物流同様、意識的に避けている格好である。
反対に、比重の高いセクターは情報通信サービスとその他金融(リース会社)で、前者はガジェット好きな側面から一般よりも移動通信の知識があり、後者も大学で履修している分野と、どちらも投資家目線では、よく分かる分野に投資している具合で、それなりの含み益や実利を生み出せている。
一方で、消費者目線で好きな商品を扱う企業に投じたこともあるが、こちらは含み損を抱えていて、製品のファンが応援して投じる心理と、投資家心理が必ずしも一致する訳ではないことを学んだ。
知れば知るほどリスクを取れなくなる
ここまでの内容を整理すると、投資家、消費者、従業員それぞれの立場から得られる情報量には違いがあり、特定の立場から得られる情報量の多い順として、従業員>投資家≧消費者となるだろう。
従業員はプレーヤーとして現場の最前線で勤めているため、会社の内情を最も熟知しているのは明白である。
経営者には耳障りの良い情報が優先的に報告され、ある程度濾過された報告を元にIR情報を作成するため、投資家が知り得る情報は、どれほど頑張っても経営者と同等かそれ以下で、IR情報を読み込まなければ、消費者の情報量と大差ないだろう。
消費者は現場の最前線で働く従業員を見ることはあっても、バックヤードはブラックボックス化しており、表向きの情報や、ブランドイメージの影響を受けやすい。
例えば、路地裏の超特急と揶揄されるハマの赤いあんちくしょう電車で有名な某社は、消費者である沿線住民からは熱狂的な支持を集めているが、内情を知っている従業員や業界関係者の間では、13連勤手取り14万円という、ブラック臭漂うパブリックコメントで有名だ。
投資家目線でどのような評価がされて、今の株価に落ち着いているのかは、業界人のバイアスが加わっている私の立場では、あり得ないほど高値だと感じてしまうため、正直分からない。
ここで感じるのは、ババを引かないためにある程度の情報を仕入れることは重要だが、逆に知りすぎてしまうとリスクばかりが目についてしまい、投資が出来なくなってしまう点だ。
私がバリュー銘柄で適格なものを見つけた際に、割安で放置されている=隠れたリスクがある前提の下、何かを見落としていないか推察するように努めてはいるが、知識や経験の不足からリスクがピンとこないまま投じた時ほど、利益が大きかったりするのも事実である。
手堅く配当を得るだけなら、情報を集めるに越したことはないが、キャピタル狙いの場合、投資家の多くがリスクと捉えている要素を知らずに、純粋に需給で取引した方が、誰も買いたがらない時に安く仕込める意味で、常識外れの方が却ってリスクが取れるのかも知れない。
もちろん、大きく外して多大な損失を被るリスクがあることは言うまでもなく、投資はどこまで行っても自己責任の世界である。
[増補]バフェットが”何でも屋”の商社株を持つ矛盾を読み解く
さて、バフェット氏が率いる投資会社、バークシャー・ハサウェイが、日本の5大総合商社株を積極的に買っているのは周知の事実であり、バフェット効果によって万年割高となっているのが現状である。
ここで、今一度冒頭のバフェット氏の名言を思い出していただきたい。「投資の対象は、自分に理解できる“シンプルなビジネス”に限るべきだ」と彼は言っている。
しかし、こと日本の5大総合商社の実態は、本来の商社として商品やサービスの仲介を行い、安く仕入れて高く売った差益を受け取る機能よりも、従業員個々人の裁量で、数億円〜数十億円規模の資金を動かす形での、ダイナミックな事業投資を行う”何でも屋”の集合体だと私は捉えている。
投資会社という意味では、バークシャーに通じる部分があるのかも知れないが、その細部まで自分に理解できる“シンプルなビジネス”とは、到底思えないのが正直な所で、個人的には長年不可解な「矛盾」に映っていたが、最近になって、ようやくバフェットが商社株に目をつけた思惑が、朧げながら浮かんできた。
いわゆる商社マンはサラリーマンでありながら、個人の裁量で数十億円規模の事業投資を行っている意味で、世間一般のサラリーマンよりも、ずば抜けて投資のセンスが良い。
5大総合商社は、事業ポートフォリオの組み替えを頻繁に行っている印象があるが、新しく取得する株式や事業は、まだ世間が注目する前段階で、確かな潜在価値を見抜き、数年後に爆発的にヒットしていたり、反対に売却する株式や事業は、半年〜数年後に業績が悪化して、その後長期低迷するケースが多く、その目利き力には脱帽する。
バフェット氏は、そんな”何でも屋”の商社株を保有し、適時開示情報を継続的に読み解くことで、日本株、延いては日本社会の動向を把握し、自身の投資アイディアに活かす思惑があるのではないか。
そう考えると、確かに5大総合商社株のまとめ買いは理に適っているように思えるが、いかがだろうか。