個別株運用で自分と向き合う'e
非効率な個別株でアクティブ運用する理由
私は外貨建て資産に関しては、ノーロードかつ信託報酬が低廉な、優良インデックスファンドの積み立てを行っているが、日本株に関しては個別で運用している。
正直、トータルリターンだけ比べると米国株式のインデックスファンドの方が高く、銘柄の入れ替えもファンド側で行なってくれるから手間も掛からない。
時折、有価証券報告書や決算短信、会社四季報、日経新聞に目を通す労力を掛けてまで運用しても、実利では経済成長している国のパッシブ運用に到底敵わない意味で、個別株運用の報われなさに歯がゆい思いをするが、それでも懲りずに非効率な個別で運用しているのは、投資経験の幅が広がるためである。
いつ、どの証券会社で、何の銘柄を、一株いくらで売買するか考えさせられ、ポジションを取った瞬間から、否応にも含み損益に晒され、感情を揺さぶられる。
市場の波に揉まれながらトライアンドエラーを繰り返す過程で、自身の性格や金銭感覚と都度向き合い、その度に何かを学び取っては成長し、投資方針を確立していく経験は、一朝一夕で得られるものではなく、ほったらかしがウリのインデックスファンドで長期、分散、積立投資だけでこれらの経験を得るのは難しいと考える。
また、日本に生まれ、日本国籍である以上、基本的に日本円で決済して生活しなければならず、資産運用で得られるキャッシュは日本円の方が都合が良いが、とはいえ日本株の代表的な指数に、優良なものがあるように思えず、信託報酬の割高さも相まって、ラインナップの殆どが銀行や保険会社などが手数料を稼ぐために存在しているようなファンドに見えて仕方がない。
それに加え、個別であれば株主優待制度の恩恵が受けられる点や、世界でも難解言語とされている日本語をネイティブで扱えることから、世界中からアクセス可能な日本企業のIR情報に言語の壁がない分、世界中のプロの投資家達よりも有利に情報収集できる利点があるため、個別で運用するのに適した環境であると考えている。
一周回ってパッシブ運用
そんなこんなで日本株は個別で運用している。右も左も分からなかった頃はネームバリューのある実質ゾンビ企業に手を出して痛い目にあったり、配当や優待目当てで業績不振なバリュートラップな銘柄に手を出したりと、全体で見たらトントンか微増程度の散々たる結果だった。
そこから学び直しの一環として大学で経済、金融、会計、心理学を学び、これらを銘柄選定に応用したことで、次第に実利が得られるようになっていった。
そこで気づいたのは、自身のポートフォリオは日経平均株価とは連動しないものの、TOPIXとは似たような動きをしていることだった。
分散投資とはいえ、保有銘柄が40を超えた辺りから、個別株運用なのに、インデックス運用と似通った値動きとなり、分散をやり過ぎると個別株の旨みも半減することを思い知った。
更に深掘りして調べると、ポートフォリオの時価総額のおよそ8割がJPX日経インデックス400の構成銘柄で占めており、資産推移もJPX400と似たような推移となっていた。
売買タイミングや選定した銘柄が良かったのか、JPX400よりもトータルリターンが高かったのは不幸中の幸いであるが、個別株運用で手堅くリターンを得ようとすればするほど、一周回ってインデックスファンドのパッシブ運用と似たような銘柄構成になるジレンマを抱えている。
現在はある程度分散しつつも、銘柄数を絞り込む塩梅の難しさに悪戦苦闘しながら、自分の中のベストを模索している。
増やしたお金をどう使うか
資産運用を行う目的は、お金を増やすことに尽きると思うが、大切なのは増やしたお金をどのように使い、人生を充実したものにしていくかだろう。
お金はあるに越したことはないが、増えれば増えるほど、お金がなかった頃とは違う悩みが発生するのもまた事実で、無目的に増やせば良い類のものでもないというのが、私なりの見解であり、異論は認める。
「生涯で困らないだけのお金を手にした後は、お金以外の何かを追求した方が良い。」は、スティーブ・ジョブズ氏の最後の言葉と言われている。
一代で巨大IT企業の代名詞であるGAFAの一角にまでAppleを成長させ、巨万の富を築き上げたジョブズ氏でさえ、お金儲けには際限がないだけでなく、人間を歪ませてしまうと、最期になって気付いた辺りが人間の真理だと私も思う。
岡本太郎氏も自筆で「金と名誉ほど、人間をだめにさせてしまうものはない。そんなもののために、あくせく生きるなんて愚劣だ。」と酷評していることからも、お金は何かを実現するために使う交換道具であり、それ以上でもそれ以下でもなく、増やすことそのものを目的にすると本質を見失うだろう。
かつての私は経済的に独立(FIRE)することで、生活のための労働(ブルシット・ジョブ)から解放された、自由の身になるために蓄財に励んでいたが、ある日、身体を壊すというドロップアウトの口実を得たことで、今では賃金労働という名の罰ゲームから脱却している。
投資を継続するのに、知識や経験は重要
確かに、資産を効率よく増やすなら、インデックスファンドが再現性の最も高い手段であることは間違いない。しかし、運用をプロに丸投げしていては、増えたお金を上手に使う金融リテラシーは恐らく育たない。
例えるなら、RPGで1周目は試行錯誤して、悪戦苦闘の末に全クリした後、2周目から最適化して攻略するのが、個別株運用を経験した上でインデックス運用を選択する心理で、初めからインデックス運用一本で資産形成するのは、1周目から攻略本を参考に最適化した状態で攻略していくようなものである。
後者はロスがない分だけ一見すると合理的だが、人間の心が思っているほど合理的でないことは、行動経済学で指摘されている通りで、恐らく面白味に欠けることから、投資で重要な要素である継続ができないか、暗号資産のような流行りに心が揺さぶられて、どこかで軸がブレてしまう。
その点、一見すると回り道に見える個別株運用は、真剣にお金と向き合うからこそ、投資の軸が腹落ちして流行に左右されなかったり、インデックスファンドの優秀さが身に沁みているから、分配金再投資型で手元のキャッシュフローが増加しなくても、将来を見据えて継続しやすい。
結果として、お金を上手に扱えるようになる確率が高くなることを踏まえると、再現性のあるインデックスファンド一本で築いた資産よりも、金融リテラシーと上手なお金の使い方が身に付くのは自明の理ではないだろうか。
[増補]インデックス投資はAT車、個別株投資はMT車
運用方針を巡って、度々パッシブ・アクティブ論争が勃発するイメージがある。
パッシブ運用派は、限りある人生の中で選択肢を増やすためにあると便利な、お金を増やす行為である資産運用に時間を割くのはもったいない。だから非裁量でほったらかしが許されるパッシブ運用で、世界経済全体の成長の恩恵を、時間を武器に手堅く受けるのが理に適っているのが主張の大枠だろう。
一方でアクティブ運用派は、自身の裁量で運用することで、自ずと世界経済の動きに興味を持ち、視野が広がるだけでなく、うまく投資するために、自分と向き合うようになることで、お金の使い方も上達し、長い人生トータルで考えれば、資産運用に時間や労力を割くだけのメリットがあるとするのが主張の大枠だろう。
どちらも同じ資産形成という目的は果たせそうだが、アクティブ運用は自身の裁量に委ねており、人間は必ずしも経済的合理性に基づいて行動するわけではないことが、行動経済学で証明されていることからも、難易度は高くなる。
これは自動車の運転免許でいうところのAT限定で取るか、MTで取るかの違いに似ている。どちらも車を運転するという目的は果たせるが、MTの方がギアやクラッチ操作という裁量が増えるため、難易度は高くなる。
そして昨今の潮流を鑑みれば、AT限定免許でも何ら不自由しないことから、若年層はAT限定免許が多数派となっており、実家や就職先等で必要に迫られているわけでもない限り、MTで取る人は単なる物好きや自己満足で取得していると捉えるのが自然だろう。
これを投資方針に置き換えれば、資産形成という目的を最小限の労力で果たしたい人がパッシブ運用を選び、こちらが多数派であって、アクティブ運用は資産形成の過程を楽しみたい物好きのための、自己満足の世界というポジションに落ち着く。
つまり、現状パッシブ運用で満足している人に対して、金融・経済・会計等の予備知識を習得するコストが掛かる、ある意味”限定解除”をしてまで、アクティブ運用を勧めるのは余計なお世話に他ならない。
私も外貨建て資産は実用的で楽なパッシブ運用で一任していることからも、アクティブ運用は、あくまでも物好きのための自己満足の世界であることを自覚し、その価値観を他人に押し付けることなく、聞かれたら答える程度のスタンスで、基本は個人で嗜むのが賢明だろう。