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年金は何歳から受給すべきか'e


結論:数理上は70歳がベスト

 ファイナンシャルプランナーの有資格者(2級FP技能士、AFPは取得条件は満たしているものの、年会費が取られるため申請していない)を会話のネタで使うと、必ずと言って良いほど、年金は何歳から受給すべきかと聞かれる。

 2023年時点では65歳から受給開始が標準となっているが、希望すれば60歳〜75歳まで受給開始を繰り上げ、繰り下げできるようになり、繰り上げは減額、繰り下げは増額されることから、何歳から受け取るのがベストか分からない状況となっているのが大衆心理なのだろう。

 正直なところ、何歳まで生きるかが分からない以上、数理上ベストな答えは人それぞれ異なるものの、平均寿命まで全うする前提であれば、男女ともに70歳から受給開始が、数理上はベストな選択と言える。

国民年金81.6万円/年,繰り上げ時▲0.4%/月,繰り下げ時+0.7%/月で試算.
赤が65歳から受給.70歳からの橙が81歳〜90歳時点で最も受給総額が多い.

 とはいえ、自分が早死にすると思うなら、できるだけ早くから受け取ったほうが良いし、1世紀以上生きてやるぜ!的なエネルギッシュさを持ち合わせているなら、ギリギリまで繰り下げした方が良い。

 こればかりは遺伝的傾向もあるだろうし、数理上は70歳から受給がベストと言われても、現実的な問題として、定年退職などによって給与収入がなくなった状態から70歳まで、これまでの貯蓄や退職金の取り崩しで家計が持ち堪えられるかは千差万別であり、必ずしも数理上のベストと、個人の最適解が一致するとは限らない。

健康寿命を考慮すると、最適解は変わる

 上記に加え、何歳まで健康的に過ごせるかも重要な要素である。いくら長生きしても、ベッドの上で植物状態で年金を貰い続けても嬉しくないのは自明の理で、老後からいつまでに何をやりたいのかによって、受給総額を妥協してでも、早期に受け取って引退生活をエンジョイすることも選択肢として有力だろう。

 学生時代は時間があってもお金がない。社会人はお金があっても時間がない。お金も時間もある老後には体力がない。そう考えると、人生でいつ遊ぶのか。いつ楽しむのかを考えることは、何歳からでも早過ぎることはないように思う。

 世間一般の中央値的な20代だと、病気とは無縁で今の健康状態が永続すると錯覚しがちだが、突然の急逝でもない限り、健康面で何ら不安を感じず、懸念材料もなく人生を全うできる人は皆無だろう。

 私はブラックな環境に身を置いてしまい、急激に消耗したことから20代半ばで内臓を悪くして入院、手術に至った。入院当初、身体の数値が異常値であることは確認できたものの、原因が特定できず、癌まで疑われた。

 原因が特定されるまでの待機期間はかなり堪えて、フランスベッドの上で、あれこれやってみたかったけど、理由を付けてやっていなかったことが叶わぬまま、生涯が終わるかもしれない悲観シナリオを想像しては、これまでの楽しみを先送りする生き方に後悔した。

 長生きして多くの年金を受給することは理にかなっているが、生涯で何をやりたいのか。その目的を果たすために、何歳でいくらのお金を必要とするのか。その一手段として、年金の受給時期を決めるのは、数理上のベストを選択するよりも個人にとって、納得感や意義のある選択と言えるだろう。

長生きするインセンティブ

 とはいえ、人生の目的が明確にあるような人であれば、そもそも会社員という生き方を選んでいないだろう。周囲に合わせて何となく就職して、何となく結婚して、何となく家を買った既定路線。

 こちらの方が、世間体が良く心地よいという意見は否定しないが、特段やりたいことが思い浮かばないことを考えると、闇雲に繰り上げ受給をすることで、長生きしたがために老後破産に陥るリスクを抱えるのは賢しい選択とは言い難い。

 受給を意識する年齢で、今後の人生が無目的であれば、時の流れに身を任せて、その時々で価値観が変化した時に対応できる、数理上最も合理的な選択肢。つまり、5年間の繰り下げ受給で額面を42%増にしておくことで、長生きすることによるインセンティブが得られる訳である。

 極論、60歳で繰り上げ受給してしまうと、80歳以降は受給額が通常と比べて24%減の状態が死ぬまで続くため、損した気持ちになる。逆に70歳まで繰り下げた場合は、81歳まで生きなければ元が取れないのだから、それまで死ねない。是が非でも生き残ってやると、長生きする方向のインセンティブが生じる。

 ここに数理上、平均寿命を全うするだけでは元が取れない、最長10年の75歳まで繰り下げて受給する意義が出てくる。

 10年遅れで受け取り始め、84%増の年金を受け取る場合、通常時であれば86歳、5年繰り下げた場合と比べると91歳まで生きなければ、増額の恩恵を受けることができない。

 80歳過ぎたら、減額された年金で長生きしても仕方ないと思って生きる前者と、受け取り開始が遅かった分を回収するまで死ねないと思って生きる後者とでは、心の持ちようが変わってくる。

 だからこそ、平均寿命が短い男性で仮定しても、60〜70歳のどこで受給開始しようが、平均寿命の81歳まで全うしたところで、81歳時点で受給総額は$${13,904,640−13,643,520=261,120}$$円※しか差が出ない。

※国民年金満額の816,000円/年で試算した、70歳受給開始(5年繰下げ)時と、60歳受給開始(5年繰上げ)時での、81歳時点での受給総額の差。

 大差ないなら早めに貰ったほうが良いとも考えられるが、もし60〜70歳時点で、資金繰りに窮していない場合、70歳まで引き延ばしたほうが、同じ81歳時点でも42%増額された年金が受給できるため、長生きする方向に意識が向き、増えた額面以上の心のゆとりが得られるかもしれない。

[増補]会社員は繰り下げ方によって、税負担が増える可能性

 年金所得は税制上、国税に最も有利な、裏をかえすと納税者に最も不利な雑所得として計上される。とはいえ、公的年金等控除110万円の特権があるため、これを基礎控除48万円と組み合わせると、年間158万円までの年金所得なら所得税がゼロとなる計算だ。

 住民税の場合は、基礎控除が5万円少ないため、住民税非課税世帯の恩恵を受けたい場合には、年金所得が年間153万円までである必要がある。

 1階建て部分の基礎年金は81.6万円を上限とするため、低所得者としてのベネフィットを得たい場合、厚生年金の支給額は、今の税制を鑑みると、年間71.4万円に抑えておきたいところだ。

 因みに平成15年4月以降の場合、
$${老齢厚生年金額=平均標準報酬額×\frac{5.481}{1000}×月数}$$
で算出できるため、仮に平均標準報酬額を34万円、40年間勤めた場合の480ヶ月で、厚生年金受給額を概算すると、
$${340,000×\frac{5.481}{1000}×480≒894,500}$$円 
となり、基礎年金の満額である816,000円(令和6年時点)と合算すると、
$${816,000+894,500=1,710,500}$$円
と、基礎控除+公的年金等控除を駆使しても、課税所得が130,500円(住民税なら+5万円)となるため、税金や社会保険料が発生し、住民税非課税世帯の恩恵も受けられない。

 年金や社会保障の制度は時代に応じて変化するため、一概には言えないものの、控除の枠に収まりきらなかったが故に、微妙に課税所得が発生する状態を”もったいない”と感じる場合に、敢えて繰り上げ受給で最大24%(1962年度よりも前に生まれた場合30%)の減額をする妙味が出て来ると私は考える。

 これはあくまでも平凡なサラリーマン人生で定年を迎えた場合の、庶民にのみ使える芸当であり、24%減額したくらいで微妙な課税所得が相殺できないエリートハイスペリーマンは年金生活となっても、大人しく納税する他ない。ざまぁ

 また、ここではiDeCoやDCに関しては触れておらず、これらも一時金として受け取る場合は退職所得扱い、年金として受け取る場合は雑所得扱いと、各々の基礎年金+厚生年金の受給(見込)額や、勤続年数とのバランスを加味して、初めて数理上の最適解が導き出せる複雑怪奇な制度・税制となっている。

 老齢年金は一度受給し始めると、最期まで変更できないため、受け取り方の最適解が分からない、失敗したくない方は、税理士やFPなどの専門家に相談すると、平均寿命まで生きるつもりなら、相談料の元は十二分に取れると思われる。


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