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儲かる情報は教えたくない'e
友人と同じ板で競合したの巻
過日、某銘柄の株主優待目当てで権利確定日に現物で買い注文を行い、翌営業日に売り注文を出した。
通常、この手の優待銘柄はクロス注文と言って、権利落ちする前に現物買いと信用取引で空売りを同時に発注し、権利付き最終日を跨いだら、信用取引の売り注文を、現引きする形で相殺させることで、価格変動リスクを負うことなく株主優待だけをゲットするのが定石となっている。
しかし、逆日歩という株が不足した際の借り賃が曲者で、某ポテトチップス優待のように、有名過ぎるあまり空売りが集中すると、たかだか数千円の優待を取得するのに、逆日歩が5万円超という事態が発生したのは記憶に新しい。
私は逆日歩が嫌で、あくまでも長期保有前提か、逆日歩のコストを無駄に支払うくらいなら、現物だけで権利確定日を跨ぎ、配当落ちのキャピタルロスを受け入れることにしている。
また小型銘柄だと、証券会社のオプションでなければ信用売りから注文できないことが多く、今回の銘柄はまさにそれであった。
そもそも、信用取引の格言で「買いは家まで、売りは命まで」とある位だから、資金効率の良さや、レバレッジによって若いうちに大金持ちになれる可能性もある反面、ワンミスで大損して借金を抱えるリスクもある。
それで退場しようものなら長い人生で複利が活かせず勿体ないため、時間は掛かっても現物取引のみで小金持ちになることを目指している。故に、信用取引の口座は開設していない。
それはさておき、見出しにもあるように、飲みの場で優待おもしろおじさんの地位を確立しつつある身として、マイナーな優待銘柄を見つけるとネタで紹介したりするのだが、それを聞いていた友人が、私と全く同じ取引を行っていたことが発覚した。
株価というのは、需要と供給で決まり、権利確定前は配当や優待目当てで買いたい人が多いから、株価は吊り上がりやすい。一方、権利落ちをすると、ポジションを解消するために売りたい人が多くなるから、株価は下落しやすい。
競争相手が多ければ多いほど、取れるはずの利ざやが徐々に小さくなり、成れの果てがポテトチップスの逆日歩事件になる。儲かる手法を見つけたのなら、できる限りそのノウハウを独占して、その手法で稼げなくなるまでやり続けたいのが人間の性でもある。
情報商材屋の魂胆
数年前、私がまだ投資初心者だった頃、ネットの広告で「私はもう十分稼ぎました。この広告を見た方に、特別にそのノウハウをお教えします。」などと謳った所謂情報商材が散見されていた。
職場の先輩は「あれ本当かいな?」と怪しみながらも若干信じており、心の奥底では儲けたい魂胆が垣間見えたのが、いかにも関西人らしいと思った記憶がある。
金融リテラシーが劇的に向上した今となっては、その手の文体を脳が勝手にフィルタリングしているので、最近見た記憶はないが、恐らく状況は昔と大して変わらないだろう。
先ほど、儲かる手法を教えてしまうと、自分の利ざやが小さくなってしまう構造上、儲かる情報は儲けられなくなるまで独占するに限ると記した。
そもそも私が胡散臭いと感じる方は信じて貰わなくて結構だが、情報商材屋の「もう十分稼ぎました」は、私の理屈では善意で儲かるノウハウを教えるように見せかけて、「旨味がなくなるほど稼ぎました」もしくは「既にそれ単体では稼げなくなっている手法です」と公言しているようにも汲み取れる。
つまり、過去にそのノウハウで稼いだ実績はあるかも知れないが、既にその手法は、優待クロス取引のように、大衆に浸透してしまったため、それ単体で儲けることが出来なくなっているから、それを情報弱者に高値で売りつけて利ざやを取ろうとしているのが常と考えるべきである。
情報商材の全てが悪だと言うつもりはないが、高額なものほど、ジャンク品売り場の中からお宝を探し当てる位の難易度で、金融リテラシーや投資経験がなければ、見分けることが難しいのは容易に想像がつくだろう。
ズルを知り、利用しないのが善人の嗜み
私が面白い人だと思っている高橋がなり氏の、脱負け犬10ヶ条で「ずるい技法を学べ、しかし利用するな」がある。
これは、ズルをする輩の手口を知って悪用すれば同じ穴の狢だが、知っているだけであれば、騙し相手目線で物事を見たり考えることにつながり、当事者だと見落としがちな相手の魂胆が垣間見えるようになるため、結果として騙されづらくなるだろう。知識として知っておいて利用しないのが善人の嗜みである。
世界恐慌が直撃した米国のルーズベルト政権では、ニューディール政策の一端で金融市場の健全化を行うため、ケネディ大統領のお父さんである、ジョセフ・P・ケネディ氏を、初代証券取引委員会の委員長に任命した際、「泥棒を捕まえるのに泥棒が必要だ」とうそぶいたのもこれに通じるものがある。
ジョセフ・P・ケネディ氏は、晩年こそ証券市場の規制を強化して、投資家保護に尽力されたが、自身が初代証券取引委員長となる前には、インサイダー取引や禁酒法下での闇市での酒ビジネスでボロ儲けしていることで悪名高かった。
それにも関わらず、自分はもう十分稼いだからと、ズルい抜け穴は当時の仲間を説得して次々に塞ぎに行ったのだから、本当に儲かるノウハウは独占されるし、仮に広く知れ渡る頃には、抜け穴が塞がれるか、利ざやが小さくなって旨味がなくなっていることは自明の理ではないだろうか。
大衆に楽して儲けられるような、都合の良い話は出回らないもので、地道に収入を増やすか、支出を減らすか、リスクを取って運用利回りを1%単位で上げるかで、複利の力を活かすのが、最もつまらないが確実な道と言えるだろう。
[増補]孫子ですら、核心には触れていない
「戦わずして勝つ」でお馴染みの「孫子の兵法」は、2500年経った今でも有効な戦略書として多くの人に読まれている。しかし、書籍では抽象的な方法論こそ記されているものの、具体的な手法までは言及していない印象がある。
研究者が想像するに、複製ができる書物で肝心要の部分を記してしまうと、情報商材だけ買えば十分であり、本人が雇ってもらえないことや、全部を記すと敵が同じ手法を使ってきて出し抜けなくなることから、あくまでも考え方のフレームだけ記し、核心に触れる部分は口頭で教えるコンサルとして、立ち振る舞う強かさがあったのではないかとも言われている。
やはり、儲かる情報は教えたくないのは世の常で、私も例に漏れずそのものスバリは記していない。あくまでも、このような見方、考え方をすると世の中の歪みを発見しやすいと、思ったままを記すに留め、それをどう実利に結びつけるかは、各々で考えるよう促すのが関の山だろう。
目先のことしか考えられない、情報商材屋や売れないコンサル辺りが、意識高い系セミナーでそのものズバリを公言し始めると、知る人ぞ知る隠れコマンドだったものが、瞬く間にパンピーが当たり前に繰り出す小技に成り下がり、それを快く思わない国税が、せっかく放置していた抜け穴が塞がれてしまうのは、24年からできなくなったタワマン節税からも伺える。
孫子ですら、核心には触れていないのだから、いつの時代も画期的な戦略というのは、誰かから教えられる類のものではなく、もし仮に教えられるようなことがあれば、すでに広く知れ渡っており、陳腐化していると捉えるのが自然だと思うが、いかがだろうか。
そう考えると原理上、楽に儲かる情報が手に入る筈もなく、結局は自分の頭で考えられるだけの教養と観察眼を地道に身につけることが、この情報社会を生きる上で重要という、身も蓋もないオチに着地したところで筆を置かせていただく。
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