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新幹線が負の遺産になる未来


新幹線を東京-大阪間以外に建設したら、大変なことになる

 北海道新幹線の札幌延伸、北陸新幹線の新大阪延伸、西九州新幹線の全通、そして東九州新幹線の整備案と来た。四国新幹線も構想段階ではあるが、ゆくゆくは敷設したい機運は醸成されつつある。

 生まれた時から”新幹線”が存在していた身としては、この言葉に違和感を覚えることがないが、そもそもJRの在来線は、輸送人員により幹線と地方交通線に大別されており、運賃計算も微妙に異なっていた。

 そして、東京、名古屋、京都を結ぶ東海道線は、言わずもがな幹線に位置するものの、戦後復興期の時点で、既にキャパオーバーとなったことで、これまでの在来線の規格とは異なる、高速運転に適した”新しい幹線”が必要となったことで、1964年の東京五輪に合わせる形で”新幹線”が開業した。

 その際、新幹線の父と呼ばれる十河信二氏は、東海道新幹線開通直後に「新幹線を東京と大阪との間以外の地域で建設したら、大変なことになる。」と述べていたらしいが、現実は利権化して人口減少時代にも関わらず、全国各地で建設や構想が練られている。

 特に長崎〜武雄温泉間で暫定開業した西九州新幹線は、武雄温泉〜新鳥栖間に関しては、佐賀県が先述の並行在来線の第3セクター化に難色を示しているため、全線開通は難航するだろう。

 JRの在来線であればJR法によって、たとえ赤字路線でも黒字路線からの補填で路線網の維持に努めなければならないことが明記されるが、新幹線開通時に、並行在来線は第3セクター化すると、路線網を維持・運行するかは、財政の厳しい地方自治体に委ねられ、現に函館本線で北海道新幹線の札幌延伸に伴う廃線が決定されている。

 話を西九州新幹線に戻すと、特急列車で40分弱もすれば博多駅に着くのに、そこから15分短縮するだけで、料金は割高になり、在来線の負担まで押し付けられるのだから、自治体からすれば一溜まりもない。

 元々西九州新幹線は、「真下警視、出ておいで。一緒に地下鉄走らせようよ。弾丸ライナーより」でお馴染み、フリーゲージトレイン(FGT)の導入を前提に建設を認可されていた経過がある。

 長崎〜武雄温泉間さえフル規格(軌間1435mm)で開業すれば、佐賀県側は接続部となる武雄温泉と新鳥栖の在来線(軌間1067mm)の改良工事費用を、何割かを負担するだけでOKだった約束が、FGTの開発が頓挫したことで、突如大したメリットのないフル企画で整備するよう強要されているのだから全通が難航するのは当然の流れだ。

 福岡、佐賀、長崎が、東京、名古屋、大阪のような人口密集地であれば、こんなことにはなっていない意味でも、新幹線の父の言葉は正しかったことになる。

リニア開業で、東海道新幹線さえ廃れる?

”東京五輪後、長期不況に沈む日本・・・巨額の財政赤字、深刻な労働人口不足で危機的状況に陥っていた。”

団塊の後 三度目の日本|堺屋太一

 これは堺屋太一氏の未来予測小説「団塊の後」で、2017年の時点で既に予見されていた2026年の日本の姿である。2024年も終わりを迎え、来年が未来予測の答え合わせとなる年だが、その通りの展開となっているのだから脱帽する。

 少なくとも、2017年時点では、女性活躍だとか、生涯現役だとか、絵空事を並べては、私のようなブルーカラーに従事する若年非大卒男性(レッグス:Lightly Educated Guys)を、従前通り使い潰していた頃であり、現在ほど労働人口不足を深刻に捉えていなかった頃合いなのが、リアタイ世代の感想だ。

 無論、堺屋太一氏の未来予測は、人口動態による統計分析と、そこから読み取れる中央値ベースのシナリオで構成されている。

 そのため、昨今の疫病や戦争といった予測しようがない出来事は除外されており、その関係で時系列に多少の前後はあれど、概ね予測通りの未来が到来するのは1970年代に2000年代までを予測した「団塊の世代」で実証済みだ。

 そんな遺作でもある「団塊の後」には、東海道新幹線が12両に減車されていることと、食堂車の復活が挙げられている。

 「団塊の後」の趣旨が、団塊世代全員が後期高齢者となり、社会からリタイアしたことで、団塊に合わせて作られたインフラが悉く供給過剰となっている点。

 それに加えて、27年にリニアが品川〜名古屋間で開通することが前提のため、リニア開通が静岡工区のゴタゴタで延期となった今、新幹線の減車や食堂車が現実化するとしても、2030年代以降の話にずれ込むだろう。

 とはいえ、長らく16両編成、定員1,323名で統一されていた東海道新幹線で、21年4月以降に導入されたN700Sでは、4名少ない1,319名となり、また、26年度に個室を導入することが発表されている。

 JR東海も、輸送人員が減少した分を、客単価向上でカバーしたい思惑が見え隠れしており、リニア開業で、東海道新幹線さえ廃れるのは既定路線なのかもしれない。

東海道新幹線12両減車化と食堂車の復活の妥当性を、元業界人が考察

 品川〜名古屋間の速達需要(のぞみ)がリニアに奪われる場合、12両減車化と食堂車の復活は妥当なのか、元業界人目線で考察するが、結論から記すと、直感に反して、かなり現実的かつ、あり得るシナリオだ。

 リニアの定員が普通車で1両60名が最大と、既に規格は決まっており、編成は10〜16両を見込んでいることから、編成定員は最大で960名。

https://company.jr-central.co.jp/chuoshinkansen/procedure/construction/_pdf/9-2-3.pdf

 とはいえ、停車場平面図の寸法を見る限り、有効長は370.5mしか取っておらず、16両の編成長は406m(先頭28m、中間25m)。仮に先頭車のノーズ部にホームが要らないとしても、ノーズの終端から乗降扉までの距離を最低でも3m開けて、ギリギリ16両分の乗降扉が370.5mのホームに納まるか…といったところだ。

 おそらく、最初は10〜12両運転で、様子を見ながら14両、16両と増やしていく目論見と思われる。

 リニアを控えめに見積もり、10両運転、最大定員600名、乗車率80%、毎時8本と仮定すると、輸送人員は3,840人/時。

 一方、のぞみは定員1,323名。乗車率はリニア同様の80%で仮定し、毎時12本運転していることから、輸送人員は12,700人/時。

 このことからリニアは、概ねのぞみの乗客を3割ほど奪うポテンシャルがあると推定される。

 そして編成を16両から3割減らすと、数理上は11.2両で十分となる。12両に減車した上で、うち1両が食堂車となり、客室は11両分しかなくても、端数は人口減少による自然減で許容できる範疇となるだろう。

 つまり、リニアが品川〜名古屋間に開業するだけで、大阪まで延伸されずとも、東海道新幹線の12両減車化はかなり現実的な、あり得るシナリオとなる。

 リニアに速達需要が奪われたのぞみが生き残る道は、値下げかサービスアップ程度しかなく、先述した客単価を向上させたいJR東海の思惑に合致するのが”食堂車”だと、堺屋太一氏は2017年時点で予測したのだろう。

 東海道新幹線ですら未来に廃れる可能性がある中で、北海道、北陸、西九州、東九州、四国と隅々まで新幹線網を張り巡らせるのは、今の若い世代が老後を迎える頃に、新幹線が負の遺産の代名詞となっていても不思議ではなく、元業界人として、もう新幹線建設はやめるべきだと警鐘を鳴らして筆を置く。


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