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旭酒造が大卒初任給30万円に。

これこそ真の所得倍増。

 日本酒「獺祭」を主に製造している旭酒造が、大卒初任給を21万円から30万円に引き上げ、勤務先が岩国の僻地にあるにも関わらず、応募者が殺到したことが話題となったが、ようやく日本の会社でも労働市場で少数派である若手の人材確保に躍起になっている姿勢が表出してきたことを評価している。

 私が身を置く運輸物流業界は人手不足が嘆かれているが、それは会社が安くこき使える人材を募集しても集まらないことによる人員不足であり、真っ当な賃金を支払えば離職者も減り、募集しても集まらないなんてことにはならない。

 経営者のエゴを現場に押し付け、結果として残業まみれにさせて心身を壊して潰れる人を多数出しているのだから、紛れもない人災である。旭酒造のような人材競争が激化していけば、いつまでも低賃金で使い潰すブラック企業の淘汰に一役買うのではないかと、密かに期待している。

 どこかの国の首相は公約で新しい資本主義として、令和版所得倍増計画を謳ったものの、最近になって資産所得倍増プランにすり替えて記憶に新しい。

 国民の大半が金融資産をほぼ現金の預貯金で寝かせている統計をもとに、「貯蓄から投資へ」をスローガンに金融市場の活性化を図り、GPIFの運用や、株価を支えている日銀砲の出口を探りたいのと、将来の年金カットに備え、老後資金は自助努力で備えて貰うのが本音だろう。

 しかし、一介のZ世代として、資産を現預金で寝かせているのは年寄りで、若者の大半は低賃金や社会保障費の増大による可処分所得の低下、学歴社会故の貸与型奨学金の返済が付き纏う点から、寝かせるだけの現金すら持ち合わせておらず、「所得なくして貯蓄なし」を主張したい。

若者は自分ひとり生きるので精一杯。

 金融広報中央委員の統計でも、20代単身者の保有資産額の中央値は8万円と、20代の半数は実質的に日雇い労働者ならぬ月雇い労働者的生活スタイルを強いられ、その月に自分ひとりが生きるので精一杯な状況で、大きな病気でも患えば瞬く間に詰みとなるような貯蓄額である。

 大きな病気を患えば高額療養費制度というセーフティーネットが有るとは言え、標準報酬月額26万円までの場合の自己負担限度額は57,600円、28万円以上だと80,100円〜と、保険適用の部分だけでも保有資産の全額を食い潰す。

 これも保険適用部分だけで、入院の際の館内着や食事代は別途掛かるため、退院時に限度額適用認定証を出しても、10万円単位で請求されることは決して珍しくない。それに、仕事は病気欠勤でいつもの給料とはならず、少なくなった手取りから奨学金の返済と家賃でも払えばキャッシュは枯渇し、キャッシングやリボ払いに手を出し、複利を敵に回す人生を歩まざるを得なくなる。

 これは別に大袈裟でも、非正規雇用に限った話ではなく、私が新卒で入った会社のように、一般に名前の知られている鉄道会社の正社員ですら、残業なしで手取り13万円という体たらくで、花形職業とされているアニメーターや美容師など、志望者が多く低賃金でも若い成り手がゴマンと居る職種全般で発生している現象である。

 地方出身者が上京でもすれば、手取りの半分は家賃と水道光熱費、4分の1は奨学金の返済、残りの4分の1(32,500円)でスマホ代を含めて生活するなんて事態で、保険のセールスレディが金づるにすらならないと営業を諦めるコントはよく見る光景だ。

 失われた30年で、こんな現状を知らずに貯蓄から投資などと謳っているが、現役世代の半数以上が新NISAの非課税枠を使い切れる程の現預金を持ち合わせておらず、持て余しているような制度の拡充を狙っているのだから滑稽でしかない。

国際競争力のある製品しか生き残れない。

 だからこそ、旭酒造の賃上げを非常に好意的に捉えており、所得が10万円増えれば税金や社会保険料を差し引いても手取りが8万円近く増えるのだから、選択肢が増えるのは間違いない。

 しかも、旭酒造は社員の平均年収を800万円程度まで引き上げたいと、ベースアップに積極的な姿勢を見せているのだから、人を組織の歯車程度の扱いで使い潰す鉄道業界に身を置く者としては衝撃的である。

 乗客の命を預かる仕事よりも、日本酒を製造する仕事の方が高給という事実に目を背けたくなるが、冷静に考えれば看板商品である「獺祭」はオバマ大統領(当時)の来日時に渡されたことも相まって、世界的に支持を得ているからこそ、利益となり従業員に還元できるのである。

 最近ではキリン渾身のクラフトビールである、スプリングバレー豊潤<496>は一目置いている。

 製造に手間がかかるクラフトビールを、一番搾りと同等の流通経路に耐えうるだけの供給力や、プレミアムビールにワンコイン上乗せするだけで、クラフトビールが買える価格設定など、国際競争でも負けない商品と感じたことから、21年12月期の配当性向が90%超といういかにもバリュートラップ感の出ていた状況下で株式を保有するに至った。

 それと異なり、参入障壁が高く競争原理が働かない独占企業のような鉄道会社は、国から過度な利益出すことをヤードスティック方式によって禁じられていることに胡座をかいて、莫大な固定費を垂れ流してでも定時性を最優先する程度にガラパゴス化し、大した利益にもならず、世界にも輸出できない曲芸のような社会インフラを、非大卒の若者に低賃金で背負わせて今に至るのだから、そもそもの構造が違うのである。

 私は既にスキルの溜まらない鉄道員を長く勤めてしまったが故に、大企業正社員の肩書きがありながらも、職務経歴書は単純作業故に中身がなく、転職市場では全くもって相手にされず、社会的ステータスの割に潰しが利かない詰み状態となっている。

 20代後半なのに潰しが利かない事態に直面したくなければ、就活の段階で仕事内容はスキルの溜まる性質があるかを確認することを推奨する。企業の寿命が短くなっている以上、転職が所得を倍増させる近道になるのは傾向として続くのだから。


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