早期リタイア可能か、在職中には検証不能'e
運用方針は退職前後で性質が変化する?
早期退職の目安として、賃金労働以外の収入、いわゆる資産所得で生計が立てられる状態であれば、人生アガりも同然と言われているが、そもそも、在職中の資産運用と退職後の資産運用とでは、運用方針が保守的に変化する。
ドライに記すと在職中の環境下で、本当に経済的に独立しているのかを検証することは不可能だと、自身を実験体にして気付いたため、ここに記した次第である。
実を言うと私は2021〜2022年時点で、既に可処分所得<年間収支の状態に漕ぎ着けていた。数字でざっくり説明すると、年収400万円であれば、税金と社会保険料でおよそ2割、80万円が強制的に徴収され、個人で自由に使える、すなわち可処分所得は320万円となることは、以前に源泉徴収票の見方と共にシミュレーションしている。
上記の例でいくと、通常であればこの320万円の中から、家賃や水道光熱費、食費、通信費と支出を重ね、一年分を差し引くと、理論上の貯蓄額が算出できる。(可処分所得−年間支出=貯蓄額)
しかし大抵の場合、家計簿には都合の良い支出しか計上しないため、実際には上記の公式通りには銀行口座の残高が増えず、いくらか少ない筈である。
このギャップこそが使途不明金であり、その正体を突き止める必要がある。天引きされている任意保険料とか、会費などの、取られて当たり前となっている項目ほど、支出の計上に漏れている可能性が高い。
そこまでシビアに家計簿アプリを駆使した上で、年間収支が320万円以上プラスで終えていたら、事実上、給与所得がなくても生計が立てられる状態と捉えられる。私はそう考えていたが、これには盲点がある。
在職中は複利運用、早期退職後は単利
当たり前の話だが、在職中は毎月決まった日に、一定額の賃金が指定した口座に振り込まれる。ここから天引きで貯蓄に回すか、生活費用を差し引いた残りを蓄財するかは人それぞれだが、共通しているのは、収入−支出の範囲で投資の種銭を捻出している点である。
そうして、インデックス投資であれば長期、分散、積立で、分配金を再投資した複利運用を行う。配当狙いの個別株やETFであれば、証券口座にキャッシュを蓄えておいて、株価が軟調な時に買い注文を入れては、受け取った配当は次回以降の買い注文の原資となり、結局は再投資をして複利運用となる。
複利運用が蓄財をするのに最短経路である以上、配当(分配)金再投資は資産運用において鉄則である。”早期”退職を目指す人であれば、配当金が入ったからと自分へのご褒美で散財して、セミリタイアの時期を遠ざける行為は極力避けたくなるのが心情である。
だからこそ、早期退職後に運用方針の性質が変わる。これまでイケイケドンドンの複利運用で生み出した、投資収益で生活費用が賄えると確信を持って早期退職に踏み切ったものの、退職後はその運用益を取り崩さなければならない。つまり、配当(分配)金は再投資の原資ではなく、生活費用に消える。
リスクとリターンは表裏一体
サラリーマンとの兼業投資家であれば、休むも相場が使えるが、専業投資家はどれほど地合いが悪くても、利益を生み出し、生計を立てなければならず、絶好の買い場でも生活費用のために、ある程度の現金のマージンが必須で、給料日前の口座残高がたったの数万円でも大丈夫なんて、サラリーマンの芸当はもう使えない。
肝心の投資収益が不況で萎んだら目も当てられない以上、ポートフォリオは保守的にならざるを得ない。
私は端から景気敏感で減配するような銘柄は、枕を高くして寝られないため、取れたであろうインカムやキャピタルゲインを捨ててでも、安定配当や増配銘柄の中で、比較的高配当な部類のものが大多数を占めていた。
そのため運用方針に変更はないが、だからこそ、ある程度の資産規模になるまでに時間が掛かったとも捉えられる。裏を返すと、早期退職一直線でハイリスク、ハイリターン狙いで運用していた方々は、全く同じとはいかないだろう。
短期的に生活費用の25倍の資産を築いて、早期退職に踏み切った方の運用方針が、そのままで良い筈がない。ある程度は文明社会で生活するつもりである以上、運用収益が吹き飛ぶ=経済的な死を意味するからだ。
世間のレールから外れた、何もかもが自己責任な世界で、死守すべき資産がある以上、賃金労働者の時と同様に、全てを失う勢いのリスクを背負ってでもリターンを取りに行ってはいけない。
賃金労働者の後ろ盾ありきで得られた運用収益と、運用収益単体で生計を立てる時に得られる運用収益では、後者の方がリスクを抑える分、理論上のリターンも減少する訳で、前者のハイリスク、ハイリターンな運用収益を基準に生計が立てられても、いざ後者の立場になれば、同じリターンは得られないだろう。
だから在職中に資産所得と生活費用が均衡したからと言って、早期リタイアが可能かどうかは、前提条件が異なるのだから、事実上、検証不能なのだ。
対策としては、資産所得にマージンを儲けるか、生活費用を圧縮するかだろう。前者はどこかで妥協しないと”早期”退職ではなくなってしまうため、私は後者を地方移住によって果たし、理論上は2/3程度圧縮できる(=マージンが1.5倍となる)と試算しているが、ぶっつけ本番で実行しながらデータを集計している最中である。
[増補]やはり取り崩しは心理的ハードルが高い
オリジナルを記してから1年以上が経過した。当時は早期リタイアもといドロップアウト直後という状況も相まって及び腰となり、ビビり散らかしていたことが伺える。
とはいえ振り返ってみると、インデックス投資民には堪えたであろう、2022年の相場環境とは打って変わって、23年、24年と日本株が見直されたり、円安株高で外貨建て資産が堅調に推移したりと、順張り投資家にとっては追い風の展開となったことから、退職後も資産は増え続けている。
無論、地合いが良いことで、リスク資産が過半を占める総資産が増えているだけで、リーマンショック級の相場低迷が起きれば、取るに足らない個人投資家の8桁円の資産など、瞬く間にゴリゴリと削れる格好になるのは目に見えている。
裏を返すと、インデックスファンドの4%ルールで早期リタイアを目論む場合、投資信託を取り崩す際に生じる恐怖感との闘いに、いかにして立ち向かうかが重要と言える。
これまでコツコツと積み上げて形成したインデックスファンドを、自らの意思で取り崩すことは、本来運用し続けたことで得られる将来価値を見す見す逃すことに繋がる構造上、できる限り資産を長持ちさせるために、できる限り取り崩しを最小限に抑えたいインセンティブが働いてしまう。
お金の心配をせずに済むよう経済的に独立して、やりたくない仕事はやらずに済むようにすることが目的だったはずなのに、いざ取り崩す局面となると、頭では理解していても、お金の心配をしては、しみったれてしまうのが人間の性というもので、取り崩しは今までやってきたことと真逆のことをする以上、心理的ハードルがそれなりに高いのは当然のことだ。
そうならないために積み立て投資同様、機械的に取り崩せる”投資信託定期売却サービス”たるものを活用したり、資産形成の過程で、個別株の勉強や経験を積んでから、高配当銘柄のインカム狙いにシフトするのも拙いアイディアとして浮上する。
いずれにせよ、社畜生活に慣れきっていると、安定的なキャッシュフローがあって当たり前だが、その当たり前がリタイアでなくなると、人間誰しも保守的になるわけで、インデックスから高配当のように、ポートフォリオを大胆に調整する気でいるなら、定期的なキャッシュフローが入ってくる在職中に行うべきだと感じた次第である。